そうして氷河は、大学卒業と同時に米国のロサンゼルスに向け、飛び立った。

「…じゃ、な」

 空港まで見送りに行った僕に、氷河がかけてくれた言葉はそれだけで、すぐに氷河は他の友達や女の子たちに囲まれてしまった。

 僕はもう、氷河の特別な友達じゃないのかもしれない。最初からそうじゃなかったのかもしれない。
 事実、氷河は、僕に、自分の恋のことを教えてはくれなかった。一人で悩んで苦しんで、そしておそらく、一人で逃げだそうとしている。
 それでもなお氷河を求め続ける僕は、多分、馬鹿なんだろう。


 氷河との繋がりを完全に断ち切ってしまわないために、僕は基臣さんの会社に入社した。
 幸い僕は、端から見れば、有名大学の首席卒業者だったから、それは容易に行われ、基臣さんは僕のために社長秘書室に席を準備してくれた。

 基臣さんのところにも、氷河はあまり連絡してこないようだったが、それでも時折、氷河の近況が基臣さんによってもたらされた。
「元気でやっているようだ。真面目な生活態度とは言えないようだが」
「そうですか」

 そんな会話にいちいち動揺している僕に、基臣さんは考え深げな視線を向けてくる。まさか社長室で基臣さんに泣きつくわけにはいかないから、その場は必死に平静を保とうとするんだけど、そんな日の夜には大抵僕は、基臣さんの懐に逃げ込んでしまうのが常だった。






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