そうして、氷河が渡米してから二年の月日が過ぎていった。 その頃には僕は副秘書室長に昇格していて――秘書室には僕を含めて七人しかメンバーがいなかったから、異例の抜擢というほどでもないのだが――社長のスケジュール管理を一手に任されていた。 その僕に内密で社長の渡米予定が組まれていることを、ある日、僕は、歳上の部下に知らされたんだ。 僕より社歴は長いのに、昇格試験の論文が苦手で昇格できず僕の部下に甘んじている彼は、すまなそうな顔をして、僕に言った。 「今回の社長の渡米に随行するように、室長に言われているんですが、ちょうど渡米の日が娘の父親参観の日で――もともと社長は随行はいらないとおっしゃっていたようなんですが、そうはいかないと室長はおっしゃって、つまり――」 明らかに彼は、社長の海外視察のお供などという神経をすり減らす職務は御免被りたいと思っている様子だった。 それまで、基臣さんの出張や視察には、いつも僕が随行していた。その僕に声をかけずに、基臣さんが一人で渡米しようとしている――。 氷河に会いに行くのだと、僕は直感した。 「いいよ。僕が行く。君は娘さんの父兄参観に出席してあげた方がいい」 僕の言葉に肩の荷を降ろしたような顔になって、彼は僕に頭をさげた。 基臣さんは多分、僕が氷河に会って、それでまた傷付くようなことになるのではないかと懸念しているんだろう。 だけど――傷付くことになっても、泣くことになってもいいから、僕は氷河に会いたかった。 |