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 それで、その日から俺は、瞬べったりになったんだ。

 入学式当日のうちに、瞬が男の子だってわかって、ちょっとショックは受けたんだけど、そんなら彼女じゃなく親友にすればいいと、すぐ思い直した。(言っとくが、俺が、瞬が男の子だってことに気付かなかったのは、俺のせいじゃない。担任の先生が、担任のくせに間違えて、瞬の胸に女の子用のピンクのリボンを付けたりなんかしたからだ。瞬は短パンはいてたのに)

 瞬はおとなしくて、あんまり笑わない子だったけど、そのうち、俺には笑いかけてくれるようになり、それから、俺の周りの他の奴らにも笑いかけるようになり、最後に、誰にでも笑顔を見せてくれるようになった。

 でも、俺と瞬はやっぱりいちばんの親友で、お袋のいなくなった俺んちの庭に、やがて俺と瞬の笑い声が響くようになったんだ。

 俺が小学校に入ってから、親父は以前にも増して仕事に入れ込むようになって、お袋がいた頃みたいに俺に構ってくれなくなってたし、瞬のお袋さんはお袋さんで、やっぱ色々忙しかったから、俺と瞬は、互いに互いを家族以上に身近な者のように感じていたように思う。

 瞬が瞬の親父さんとの秘密の思い出を話してくれたのも、そんな頃だった。瞬の親父さんには前世の記憶があって、生まれ変わって瞬の親父さんになったっていう、あれ。
 瞬以外の奴が言ったんだったら、『ばっかでー』と笑いとばすとこなんだが、その秘密を、瞬があんまり大事そうに話すもんだから、俺は胸がきゅっとなって、それで笑いとばしてしまえなかったんだ。瞬は、亡くなった親父さんを、すごく好きだったんだろうと思った。

 その親父さんとの秘密を、瞬は俺にだけ教えてくれたんだ。笑いとばすことなんて、できるはずがない。
 俺のお袋も誰かの生まれ変わりで、今頃誰かに生まれ変わってるんだろうかと思うと、なんか切ない気分になったし。

 瞬が今度生まれてくる時には俺のお袋に生まれ変わりたいって言ってくれた時、俺は不覚にも涙が出そうになった。
 でも、俺は、そんなことしなくていいって、瞬に言ったんだ。お袋が戻ってくる代わりに、瞬がいなくなっちまうのは、絶対に嫌だったから。


 俺は、瞬が好きだった。






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