11時をちょっとまわっていたと思う。 門を入ったとこで、母屋の二階のゲストルームの窓を見上げると、灯りがついていなかった。瞬はこんなに早くに寝ちまったんだろーかと訝りつつ、もしそうなら起こしたりしないようにしなきゃならないと思って、俺はバイクのエンジンをとめ、ガレージまでバイクを押していった。 その途中で、俺は一階にある親父の客間が明るいのに気付いたんだ。 やばい、と思った。もしかして瞬の奴が親父の帰宅に変に気を遣って、自分ちに帰っちまったんじゃないか、と。だからゲストルームの灯りがついていないんじゃないかと思ったんだ。 なんだって親父の野郎、こんな日に限ってこんな時刻に帰ってきやがるんだと腹を立てた俺は、バイクをガレージの前に放っぽりだして、庭から親父の客間の方にまわっていった。 そして――そして、俺は見てしまったんだ。 テラスに面した、カーテンの閉じられていないガラスのスライドドアの向こうに、ありうべからざる光景を。 最初、俺は客間には誰もいないのかと思った。煌々と灯りがともった客間のソファのどれにも、親父と親父の客が座っている姿はないように見えたからだ。だが、俺はすぐに、室内に人の気配があるのに気付いた。 大きい鉢植えのポトスの陰にあるモスグリーンのソファの上に、親父と――そして、瞬の。 ポトスの葉や長椅子の背もたれやアームに遮られて、二人が何をしているのかははっきり見えなかった。ただ、わかったんだ。 親父の肩や、その肩にしがみつくように置かれている瞬の綺麗な指や、それに、片方だけ爪先を床につけている瞬の細い脚が、俺に見えないところで二人がどんなふうに身体を重ね合わせているのかを、実際に見るよりもずっと克明に俺に教えてくれた。親父の肩の律動や、まるで強風に煽られる草木のように揺れる――"揺らされている"の方が正しいのかもしれない――瞬の脚は、二人が今どういうふうに繋がっていて、親父が今どんな歓喜を覚えているのかまで、俺に教えてくれた。 多分それは、俺が毎晩思い描いていたあの歓喜、なんだ。 瞬の顔が見えたわけじゃない。ソファの背もたれの陰になって、それは見えなかった。でも、親父の身体の下にあるそれが、瞬以外の誰かのもののはずがないと、俺は確信していた。お袋が亡くなって以来ずっと仕事が恋人で、女っ気が全くなかったあの親父が、今更どんな美女が現れたところで心を動かされるはずがない。 だいいち、親父の髪に絡みついていたあの指。瞬以外にあんな綺麗な指の持ち主がこの世にいるはずがないんだ。 「――」 驚愕より先に、俺は怒りに支配されていたらしい。 何に対しての怒りなのかも、誰に向けられた怒りなのかもわからない。きつく握りしめられた拳の爪が手の平に食い込む痛みで、俺は自分が何ものかに対して憤っていることに気付いた。 このままテラスから客間に入っていってやろうかとも思ったが、それはできなかった。 俺がこんな場面を見てしまったことを、瞬に知られるのが恐い。 結局俺は何も言わず何もせずに、その場を立ち去った。 |