――つまりはそういうこと。
 親父の売り物は、お袋との純愛物語だけじゃないってことだ。

 見てくれが並外れている上に、自信家で、いつも余裕に満ちてて、おまけに俺は親父が何か失敗をしでかしたところを一度たりともたことがない。仕事でドジを踏むとか、いっそ道端の石っころにけつまずいてスッ転びでもしてくれれば、人間らしい親しみを覚えないでもないだろうが、親父は、昔から俺の目に完璧な男として映っていた。人生の成功者で、運命の勝利者で、親父にかかれば叶わないことなど何一つなく、手に入らないものなど何一つない。成功も愛も瞬まで――。

 そういうことなんだ。

 あの親父が嫌がる者を無理に抱くなんてみじめなことをするはずもなし、つまりは瞬が親父を選んだんだ。誰だってそうするだろう。非の打ちどころのない男が目の前にいて自分をほしいと望んでいたら。相手が男だとか、親友の父親だとか、そんなことは問題にならないくらい、親父は完璧な男だから。

 でも――でもな、瞬。俺は今はまだ嘴の黄色いヒヨッコだけど、いつかは俺が親父を越える日がくるに違いないと思ってた。おまえがいてくれさえすれば、その日は必ず来るんだと――信じていたんだ。






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