それから先、俺の思考は堂々巡りを繰り返すばかりだった。『なぜだ』と怒り、『仕方のないこと』と自分を諭し、『それでも』と親父や瞬を呪い――いつまでもいつまでもその堂々巡りを、結局死ぬまで繰り返した。

 大学に入ってからの俺は、もう滅茶苦茶だった。自分で自分が何をしたいのかさえわからないんだから、それも仕方がない。女を取っ替え引っ替えし、そんな俺に悲しそうな目を向ける瞬を見て、俺自身傷付いていた。
 どんなに好きでも瞬を抱くことはできなかったのに、女なんて好きでなくても抱けるもんだ。――いや、好きとか嫌いとかいうんじゃない。俺の知らないところで親父と瞬が、たった今も抱き合ってるのかもしれないと思うと、誰でもいいから瞬の代わりがほしかったんだ。俺が苛立った時、手近にいる女なら誰でもよかった。女共は大抵すぐOKの返事をくれた。きっと、俺がS生命の社長の御曹司様だからだろう。だから、俺も、女たちには傍若無人に振る舞ったし、それで罪悪感も覚えなかった。

 俺が罪悪感を覚えるとしたら、それは、生活の乱れまくった俺を諭したり心配してくれたりする瞬を邪険に扱う時だけだった。それでいながら、俺は、瞬との繋がりが完全に断ち切れてしまうのを恐れて、時々自分の方から瞬に会いに行ったりもした。そうして、俺に話しかけられて嬉しそうに顔をほころばせる瞬を見て、また言いようのない苛立ちに支配されるんだ。

 本当に、俺は馬鹿だ。
 大学二年の夏、馬鹿も極まって、俺はバイク事故を起こした。
 事故自体は全面的に俺に非があって、その報いを受け、俺は打撲と精密検査のために二、三日病院の世話になることになった。

 そこにまた、親父の奴が瞬と一緒に見舞いに来やがったんだ。いや、一緒じゃあなかったが、親父が病室を出ると、ほとんど入れ違いに瞬が病室に入ってきた。病院まで二人で来て、わざと時間をずらして俺の前に姿を見せたんだと、俺は思った。

「なにしに来たんだっ! とっとと帰れっ!!」
 こんな無様な俺を、瞬には見られたくなかった。俺は手近にあったものを掴みあげ、瞬めがけて投げつけた。ガラスの水差しが壁にぶつかって割れ、その破片が瞬の頬に細く赤い線を描く。

 俺が一瞬身体を硬直させたのがわかったんだろう。瞬は心配するなというように微笑を作った。割れたガラスの破片を集めると、
「ごめんなさい。落ち着いたら、また来るよ」
 泣きそうな顔でそう言って、瞬は病室を出ていった。

 俺はといえば、なんでガラスの水差しなんて危険な物が病室に置いてあるんだと腹を立てながら、瞬を追いかけようとしてベッドを抜け出しかけ――だが、途中でやめた。

 怪我の痛みのせいじゃなく、ここでへたに瞬を追いかけていって、親父と瞬が一緒にいるところを見てしまうのが恐かったんだ。そんなことになったら、俺は、水差しどころかベッドくらい平気で二人に投げつけかねない。そんな、落ちこぼれ受験生のストレス発散みたいな馬鹿な真似、俺は死んでもしたくなかった。

 親友と父親に裏切られ、ヒネて素行不良学生をしているとはいえ、俺にはまだプライドというものがあったんだ。






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