灯が消えたような――とは、こういうことを言うのだろう。早雪一人がいなくなっただけで、それまで春のように暖かかった俺と早雪の家は、深い雪に埋まった不毛の地のそれに変わってしまった。 俺はかなり長い間、早雪を失った打撃から立ち直れなかった。何を見ても早雪を思いだし、思いだすことで、身を切られるような痛みを覚えた。誰よりも俺を理解し、どんな時も俺の味方で、俺を支え、励まし、俺を幸福にしてくれた女性を、俺は永遠に失ってしまったんだ。俺に、瞬をさえ忘れさせてくれた彼女の優しい手はもうどこにもない。それがどういうことなのか、俺は理解したくなかった。 理解できないまま――おそらく、俺は仕事に逃げたんだろう。あの頃の俺は全く空っぽの状態で、自分がいつどこで何をしていたのかさえ、はっきりとは憶えていない。 毎日白昼夢を見ているような状態で生きていた俺が、やっと我に返ったのは、小学校に入学した氷河の口から、初めて瞬の名を聞いた時だった。 瞳を輝かせて大切な友達のことを語る氷河の上に見いだした、絶望的な未来。 俺は氷河のために――早雪があれほど愛した氷河のために、自分の息子を避けるようになった。俺が氷河の人生に関わらないことが、氷河の幸福につながっているんだ。 幸い、口実はいくらでもあった。 俺の勤めている会社は急成長を続けていて、副社長にまでなっていた俺には、仕事は腐るほどあった。 氷河を避け、瞬を避け、早雪を思い続けた十数年。その間、俺の時間は止まっていたようなものだったろう。 それでいいと、俺は思っていた。俺の知っている高生加氷河と全く同じ時を過ごし、同じ学校に進み、同じように瞬への思いに苦しむ氷河をただ遠くから見守る父親を、俺は演じ続けていた。 それが氷河のためだと信じて。 だが、結局その時は来てしまったんだ。 瞬との再会――それが再び、止まっていた俺の時間を動かし始めた。 |