―― 夕べ イルカと見た夢は ――





「毎晩抱いて寝てるんです」

数日後には、MS−Xナンバー奪取作戦のために宇宙に出る。
ザフト軍の兵営の一画にあるブリーフィングルームに集うクルーゼ隊のメンバーは、初めて参加する大掛かりな作戦を直前に控え、それなりに緊張していていいはずだった。

が。
ニコルがにこにこ笑いながら言ったその一言が、そんな彼等の上から、緊張感も不安も気負いも、全てを吹き飛ばしてしまったのである。

ニコルが毎晩抱いて寝ているというのは、白いイルカの抱き枕、だった。
彼の母親が、作戦参加のために初めて家を出るニコルが寂しがらないようにと持たせてくれたもの、である。
かなりトボけた顔をしたその白イルカの抱き枕は、ニコルの身長の優に1.5倍はある巨大な代物で、許されるようなら、軍艦の個室にもその抱き枕を持ち込みたいと言うニコルに、彼と同じ赤い軍服を着た仲間たちは、一様に呆れ果てていた。

「そんなものがないと、一人で眠ることもできないのか?」
「なくても平気ですけど、抱き心地いいんですよ。大きくて暖かくて」
にっこり笑って、ニコルが答える。

それは、いわゆる“お気に入り”というものなのだろうが、そんな子供じみたことを、仲間たちの前でてらいもなく言ってのけるニコルが、イザークには理解できなかった。
呆れ果てる心とは違う場所にある無意識下の一画が、ニコルのその気負いのなさを羨んでもいる。

ニコルは、他に劣らないこと、他に勝ることを第一義とするイザークとは、まさに対極にある生き方を生きている少年だった。
それ故に、この二人の間には引力と斥力が同時に存在する。
そして、10代の少年ばかりで構成されているクルーゼ隊のメンバーたちは、皆が皆それぞれに、互いの間にそういう関係を築きつつあった。






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