「赤面症なんじゃないでしょうか。表情がすぐに表に出るのは、軍人としてはあんまり好ましいことじゃないですし」
「どうしようもない不細工を隠すためだったりして」
「案外、ものすごい童顔なのかもな」
「知られちゃ困る人物に似てるのかもしれないぞ」
「女顔を隠すためかも」
「隠すなら垂れ目だろう」
「ニキビ・吹き出物がひどい体質だという可能性も考えられる」
「かの有名なシャア少佐は、眉間の傷を隠すためと偽って、マスクを着用していたそうですけど……」

どのセリフが誰のものなのかは、勝手に察していただきたい。
ここで重要なのは、上記のセリフのどれを誰が口にしたのかということではないのだ。

「どっちにしてもだ! 俺は、自分に責任のないことで、変態の一味と見なされるのは嫌なんだ! 俺たちはエリートだぞ。変態じゃない!」
少なくとも、ミゲルにとっては、それこそがいちばんの重要問題らしかった。

問題点が明確であれば、解決法は自ずと見えてくるものである。
この場合の問題点は、彼等の隊長が変態と噂されていることであり、その噂の源は、どう考えても、彼が着けているあの珍妙な仮面だった。

故に、問題の解決方法は、
「あの不気味な仮面を外させよう。多少不細工だろうが、ニキビ面だろうが、男がそんなことを気にかけてていいものか!」
──ということになる。

そして、
「だけど、どうやってあのマスクを外させるんだ?」
という、新たな問題点が見えてくるのだ。

「それをしてみせるのがエリートってもんだろう。おまえたちの優秀な頭脳をもってすれば、それくらいたやすいことのはずだ!」
ミゲルはどうやら、後輩たちを煽るだけ煽って、自分が動くつもりはないらしい。

「誰が隊長に仮面を外させることができるのか。それができた者こそが真のエリートというわけだ」
ミゲルの何気ない無責任に気付いた様子もなく、クルーゼ隊の中では最もエリートの自負心の強いイザークがそう言って、誰にともなく頷いてみせる。

「そんな意味のないこと、やめましょうよ」
エリートは、それが正論でも弱気を嫌う。
イザークはもちろん、ニコルの意見をあっさりと無視した。

「いや、案外面白いかもしれないぞ。どうせ暇なんだし、やってみようぜ。いい方法を思いついた」
そう言って、幾分嘲笑の色を含んだ笑みを口許に浮かべたのは、ディアッカ・エルスマンその人だった。

ちなみに、この時点で、散々後輩たちを煽っていたミゲルは、言いたいことを言いたいだけ言ってすっきりしたのか、いつのまにか赤い軍服を着た後輩たちの前から姿を消していた。
ふざけた話ではある。






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