■ 二番手 イザーク・ジュールの場合 「ディアッカめ、案外と不甲斐ない」 半死半生の有り様でブリーフィングルームに運び込まれてきたディアッカを見おろして、イザークは、どこかで聞いたようなセリフを低く呟いた。 ディアッカはイザークにとって、アスランほど癇に障らず、ニコルほどイラつくことのないチームメイトではあったが、なにしろ、真のエリートは自分ひとりという気概が、彼の中には確然として存在する。 故に、真紅のうどんに完敗したディアッカの姿は、イザークに、ラウ・ル・クルーゼの仮面を剥ぎ取るという難行をやり遂げることができるのは、やはり自分だけなのだという自信を抱かせることになったのである。 「よし、今度は俺が行く」 言うなり、イザークはブリーフィングルームを飛び出した。 長い通路をこちらに向かって歩いてくるクルーゼめがけて、脱兎のごとき勢いで駆けていく。 そして、擦れ違い様、驚くべき素早さで、イザークはクルーゼのマスクを奪い取った。 己れの手に握られたクルーゼのマスクを見て、イザークは自らの勝利を確信したのである。 (これこそ、エリートの運動神経!) 「すみません、たいちょ……」 内心では大いに自画自賛しつつ、心にもない謝罪を口にしながら、噂の変態仮面の素顔を確かめるために、イザークはクルーゼの方に向き直った。 そして、彼は驚愕した。 「なにっ !? 」 これはいったいどういうことなのだろう。 仮面をむしり取られたはずのクルーゼの顔には、イザークがエリートの運動神経を発揮する以前と同じように、例のマスクが貼りついていたのだ。 イザークは、もう一度、自分の手の内にあるマスクを見直した。 もちろん、それはイザークの手の中にあった。 イザークは、確かに、クルーゼのマスクを奪い取っていたのだ。 だというのに──。 「廊下を走るのは感心しないな、イザーク。軍人たるもの、いついかなる時も平常心と沈着な行動を旨としなければならない」 クルーゼが、まるで小学校の教師のような口調で、イザークをたしなめる。 だが、そこで自分の失敗を素直に認めようとしないのもまた、エリートのエリートたるゆえんである。 この 自らの失敗を潔く認めずに、二度三度と挑戦を続けていれば、人はいつかはその目的を達成することができるのだ。 「す……すみません。急いでいたので、つい……あわわわわわっ !! 」 躓いた振りをして、再び、イザークはクルーゼのマスクを奪い取った。 もちろん、エリートたる彼の目算は完璧、イザークは再びクルーゼのマスクを手中に収めたのである。 「申し訳ありません、隊長。持病のシャクのせいで足許がふらついてしまったので、反射的に何かに掴まろうとしたら、どーゆーわけか隊長のマスクを掴んでしま……なんだとーっっ !? 」 イザークの、わざとらしいまでに説明的な謝罪の言葉が、途中で途切れる。 彼から声と言葉を奪ってしまったのは、それでもやっぱりクルーゼの顔に貼りついている例のマスクだった。 イザークの手には、確かに2枚のマスクが握られているというのに──である。 |