「なに〜っっ !? 」
通路の曲がり角で様子を窺っていたイザークが、あまりにもあっさりとしたこの展開に、驚愕の声をあげる。

ちなみに、彼が驚いたのは、あくまで、クルーゼがニコルの“オネガイ”を聞き入れてあっさりと仮面を外してしまったことに対してであり、クルーゼの顔そのものに驚いたのではなかった。
残念なことに、クルーゼは、彼よりずっと背の低いニコルにその素顔を見せるため、ほとんど俯くようにしてニコルに対峙していたので、イザークとディアッカには、彼の素顔を確かめることができなかったのである。
彼等に見ることができたのは、クルーゼの素顔を見たニコルが、彼の隊長に向かってにっこりと微笑んだ、その笑顔だけだった。


「隊長はどうしていつも仮面をつけてらっしゃるんですか?」
「その方が格好がいいと思ったのだが」


「おい、そんな理由かよ!」
クルーゼのマスク着用の理由よりも、彼の素顔を見られないことに苛ついた様子で、ディアッカが吐き出すように言う。

「そんな理由で、俺たちは変態長の部下のそしりを受けていたのかっ!」
イザークの怒りは、その言葉とは裏腹に、いわゆる本命馬である自分が、対抗(ディアッカ)でも大穴(アスラン)でもなく、あわや出走取り消しか不戦敗馬という趣だったニコルの後塵を拝することになった事実に向けられていた。

仲間たちの複雑な心中を察しているのかいないのか、ニコルはのんびり、クルーゼと世間話を続けている。
「素顔の方がカッコいいと思いますけど」
「そうかね」
「でも、もったいないので、僕以外の人には見せないでください」
「君がそう言うなら、そうしよう」

ニコルがクルーゼにそう言ったことに、他意があったのかなかったのか。
他意があったとして、それは、仲間たちへの意地悪だったのか、クルーゼの素顔を見た上での彼への思い遣りだったのか。

それはニコルのみが知ることだった。






【next】