「なんで、ニコルにちょっとオネガイされたくらいで、あんなに簡単に仮面を外してみせるんだよ、あの変態野郎はっ !! 」
クルーゼのマスクを外すことができた者こそが真のエリートだと断言したのはイザークである。
真のエリートになり損なったイザークは、真のエリートであるところのニコルの悪びれない笑顔に、憮然として噛みついた。

「きっとこれまで、隊長に向かって仮面を外して素顔を見せてくれってお願いした人は一人もいなかったんでしょうね。隊長の素顔には、みんな感心を持っているふうだったのに」
ニコルが自分の勝利を得意がってみせないことが、イザークの神経を更に逆撫でしていた。

『仮面を外してくれと頼む』──そんな単純な方法を採ることは、エリートにあるまじきことだ! と自分に言い聞かせて、イザークは、ニコルの勝利を否定しようと努めてはみた。
しかし、そんな欺瞞で自分自身を納得させるには、イザークはあまりにも正直すぎ、素直すぎ、そして、プライドが高すぎた──のである。

ニコルはクルーゼの仮面を外させた。
自分にはそれができなかった。
事実は事実である。
そして、事実は変えることができないのだ。

策士イザークは策に溺れ(イザークのあれが『策』と言えるほどのものだったかどうかには、大いに疑問の残るところではあるが)、正攻法で事を処したニコルは、全面勝利した。

それが現実だった。
そして、それが人生というものなのかもしれなかった。






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