「ところで、ニコル。隊長、どういう顔してた?」 ディアッカには、エリートの意地もプライドも、そして、人生の勝利も敗北も、大した意味を持っていない。 彼にとって価値あるもの意味あるものは、それらのものとは別の次元に存在していた。 だから、彼は、ニコルにそう尋ねることができたのである。 「知りたいですか?」 「いや、俺は大して興味ないんだが、イザークが……」 しかし、イザークはディアッカのようにはいかない。 イザークは、ディアッカの親指が指し示したカウチに、不愉快を極めた顔つきをして腰掛けていた。 感情を隠すことを知らないエリートに、ニコルがにっこりと笑いかける。 「知りたいなら、教えてあげますよ」 ここで『知りたい』と言えないのが、エリートであり、イザークである。 「別に知りたくなんかないっ!」 「ほんとに? 教えてあげてもいいですよ?」 「いらんっ!」 「そうですか? 残念だなぁ」 意地っぱりな仲間の返答を聞いて、ニコルはくすくすと含み笑いを漏らした。 変態長の部下という風評を、いちばん気に病んでいたのはイザークである。 というより、それを気にしていたのはイザークひとりだけだった。 当然、誰よりも自分たちの隊長の素顔を知りたいと思っているのも、イザークのはずなのである。 だというのに、エリートの矜持にこだわるイザークは、どこまでも意地を張り、ニコルに背を向けようとする。 そんな仲間の横顔を眺めて、ニコルはいつまでも楽しそうにくすくすと笑い続けていた。 |