spiritual flower ── phase 02 ──





「隊長が、あんまり僕を呼ぶので、帰ってきてしまいました」
小さな花は、小さく笑ってそう言った。

クルーゼは、ふいに目の前に現れたものに驚き、目をみはった。
それは、この場に──この世界のどこにも──存在してはならないもののはずだったのだ。

「まさか、幽霊……ということはないだろうな。死んでいなかったのか? それとも、これは──」
自分がそんなものを見るとは信じたくなかったクルーゼは、不本意の感に耐えず、渋々ながらにその言葉を口にした。
「幻覚か?」

ニコルは相変わらず、淡い色の微笑を浮かべている。

「それとも、まさか、クローン……?」

それは、クルーゼには、これを喪失感の見せた幻覚と思うよりも、受け入れ難い推察だった。
だが、息子を溺愛していたニコルの父親なら、それも考えられないことではない。
最愛の息子に何かがあった時のために、彼が“これ”を作って眠らせておいたということも。

「相変わらず、ものごとを合理的に考えたがるんですね」
小さな溜め息を洩らして、“それ”は──ニコルの姿をしたものは──クルーゼに尋ねてきた。
「どうして、そのままを信じないんです? 隊長が僕を呼んだ。僕は隊長が心配で、側にいたくて、だから、戻ってきた。それだけのことなのに」

「馬鹿な」
『それだけのこと』と認められるものだろうか、この現実は。
クルーゼは、仮面の奥から、自分の目の前に立つ小さな少年を凝視した。

立体映像ではなかった。
生きている人間の気配を感じる。
物理的な存在感があり、体温が空気を通して伝わってきた。

「ありえない。君は──」

「死んでしまった?」
「そうだ」
「でも、存在はしています」
「…………」

確かに、存在していないものに、己れの存在を主張することはできないだろう。
だからといって、クルーゼにこの現実が受け入れられるかというと、それは全く次元の違う問題であったが。

そもそも彼は、なぜここに現れたのだろう。
クルーゼには、何よりもそれが解せなかった。

「君を愛し、求めている人間は、他にいくらでもいる。なぜ、私のところに──」
「隊長がいちばん強く僕を呼んだから……。隊長がいちばん孤独だったから──」
「私が?」

ニコルの存在よりも、その言葉をこそ、クルーゼは認めるわけにはいかなかった。
だから、彼は、ありうべからざるその存在を無視することにしたのである。
できれば消えてほしかった──夢なら醒めてほしかった。
この花を見ていると、自分の醜いことだけが思い起こされて──クルーゼは、どうしようもなく苛立った。






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