家に帰り、そのドアを開ける時には、幾許かの決意が要った。 幸い──あるいは、不思議なことに──ニコルは、そこでクルーゼを待っていてくれた。 今朝と同じように。 命を失う前と同じように。 「ニコル……!」 “家”で、自分を迎えてくれたニコルを抱きしめるために、クルーゼは己れのプライドを捨てなければならなかった。 だが、プライドを捨てるということは、なんと甘美な苦役なのだろう。 それは、とりも直さず、プライドを捨てさせてくれるほどの相手に出会えたということなのだ。 「あ……」 クルーゼにふいに抱きしめられたことに、ニコルは軽い驚きを覚えたようだった。 そして、だが、すぐに、ニコルは、その手をクルーゼの背にまわして、彼を抱きしめようとした。 それは傍目には、ニコルがクルーゼにしがみついているようにしか見えなかったのだけれども。 「かわいそうな、僕の──」 それでも、やはり、抱きしめているのはニコルの方だったろう。 その夜、クルーゼは、生まれて初めて、相手を愛しむためのセックスをした。 |