「行ってらっしゃい」

ニコルは、悲しみを包み隠したような微笑で、クルーゼを戦場に送り出す。
彼は、自分が見送る男が、彼の戦場で何をしているのかを知っているはずだった。

“それ”が生きているものなのか、死んだものなのか、そのどちらでもないものなのかを、クルーゼは知らない。
あるいは、それは、自分が生み出した幻影なのかもしれないと疑うことさえあった。

だが、クルーゼには“それ”が必要だった。
ニコルの存在を自分の内に感じられないと、自分が人間でなくなるような気がする。

“それ”がどういう存在なのかは、もはや、さして重要な問題ではなくなっていた。
“それ”は、今のクルーゼには、ただ“必要なもの”だった。否、本当はこれまでもずっと、彼には“それ”が必要だったのだ。






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