(な…何? いったい何なの、これ…)
 東の居住区の二階の回廊から、ナキアは月下の二人を言葉もなく凝視していた。
 ナキアは混乱していた。
 バーニが自分を好きでいてくれること、自分の気持ちに気づいていたこと、だが、この恋を実らせるつもりはないらしいこと、ナディンとバーニの抱擁、二人の会話――。ナキアは喜べばいいのか、悲しむべきなのかさえわからなかった。これが驚いていいことなのかどうかさえ、彼女にはわからなかったのである。
「イルラ…陛下とナディンっていったい…」
 ナキアの後ろにいたアルディが尋ねてくるのを、イルラは、
「しっ!」
と短く遮った。
「…部屋に戻ろう」
 低く囁くウスルに促され、ナキアは心を乱したまま、それでも、こくりと頷いて踵を返した。アルディもまた、首をかしげながらナキアに続く。
 が、一人だけ、その場を離れようとしない者がいた。
(ナイド…?)
 ナキアは横目でナイドを見た。
 彼の手は、庭に面した回廊に巡らされた石の手擦りを、指先が白くなるほど強く掴んでいた。月下の庭のただ一点から視線を逸らさず、微動だにせずに、燃えるように険しい目で、ナイドは二人を見詰めていた。
 どんな時も――全身に微かな殺気をまとわりつかせ剣を振るっている時も、その口の端に皮肉をのぼらせている時も、キシュ王を罵倒している時でさえ美しかったナイドの顔がひどく醜く歪んでいる――ように、ナキアには見えた。






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