翌日正午から、神域でキシュ王の信任式が執り行われた。他の都市の王の信任式より三年分多くシュメールの聖歌を聞かされて毒気を抜かれたようなキシュ王に、王位を許した文章が刻みこまれた粘土板と印章が渡されるのを、ナキアは心ここにあらずで眺めていた。
『戦いを厭い、民が平和な日々を過ごせるよう努めるのが王の義務だ』と念じるイルラたちの聖歌の中に、『ナディンに触るな』というナイドの思念が混じっていたことだけが、ナキアの記憶に残っていた。
 アルディなどは『仕様がない』とでも言いたげに肩をすくめるだけだったが、ナキアは、ナイドのその思念はキシュ王ではなく、信任式の主催者であるバーニに向けられたものなのではないかと疑ったのである。そして、ナキアは、そんなナイドを諌めようという気にはなれなかった。






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