従来のサンスクリット教本のように、いきなり文法事項から取り組むのではなく、短い例文からサンスクリットに親しもうという試みのコーナーです。
マントラ(祈りや瞑想に際して唱える真言)やヴェーダの一節などを例文として解説してゆきます。
発音や表記法についての説明は割愛させて頂きます。市販のテキストを参照しよう!
*サンスクリットのローマ字表記に際し、点や棒の付くものはテキスト表示できないため、文字の横に点等を付けてあります。
*発音は、便宜上カタカナで表したものであり、実際の発音とは異なる場合もあります。
<第1回>ソーハム
<第2回>ガッチャティ
<第3回>オームナモーナーラーヤナーヤ
<第4回>タットヴァマシ
<第5回>アサトーマー サッドガマヤ
<第6回>エーカム サット
<第7回>サハ ナーヴァヴァトゥ
<第8回>プールナマダハ プールナミダム
<第9回>ローカーハ サマスターハ スキノー バヴァントゥNEW
<第1回>
sah.とahamがサンディによりくっついてsohamとなっています。 サンディ参照
sah.・・・彼(三人称男性単数主格) 人称・指示代名詞3人称男性参照
aham・・・私(一人称単数主格) 人称代名詞1人称参照
*格について* 主格 (nominative)
主格とは、文の主語や、補語(「AはBである」のB)にあたる語がとる形です。
この文では、「である」に相当するbe動詞はありませんが、意味としては上の日本語訳のようになります。(「彼は私である」と読むこともできます。)be動詞のない形はサンスクリットによくみられます。
<第2回>
今回はマントラではありません。
*動詞について*
動詞は語幹と語尾から成っています。また、各動詞にはその語根というものが存在します。
上の文では、 語根√・・・gam(行く) 語幹・・・gaccha 語尾・・・ti です。
語尾は動詞の主語や時制を表します。語尾 ti
は、三人称単数現在を表すので、上の文は「彼(または彼女)は行く」という意味になります。 第1類動詞現在形パラスマイパダ参照
なお、なぜ語根 √gamが gacchaに変化するのかというと、それはそういうものなので観念して覚えましょう。
つまり、sah.(彼は)という主語が付いていなくても、動詞の中に「彼は」という意味が含まれているのです。「彼」を強調したければ、sa
gacchati とします。(sah.がsaになるのはサンディ)
ちなみに動詞は活用の仕方によって10種類に分けられます。√gamは第1類動詞です。
*応用編*
buddham s'aran.am gaccha-mi ブッダム シャラナム ガッチャーミ (√gamの一人称単数現在)
<第3回>
om.・・・ヒンドゥの神聖音。(VEDANTA
KEYWORDSのページ参照)
namo・・・namas(「おじぎ、崇拝」・不変化詞)のあとにnが来ているのでサンディによりnamoとなる。
na-ra-yan.a-ya・・・na-ra-yan.ah.(ナーラーヤナ神)が与格になった形。aで終わる男性名詞参照
*格について* 与格(dative)
「・・のために、・・に」などにあたる語がとる形です。namasの目的語は必ず与格となります。
namasはマントラによく使われる語で、神の御名の前にあるときは「ナモー・・」「ナマス・・」など、後にあるときは「・・ナマハ」となります。仏教では「南無」と音写されます。崇拝の念を簡潔に表します。
*応用編*
om.
namas's'iva-ya(オームナマッシヴァーヤ) ・・・ シヴァ神を崇めるマントラ。
tat・・・(それ) 単数主格・中性 人称・指示代名詞3人称中性参照
tvam・・・(あなた) 単数主格 人称代名詞2人称参照
asi・・・(である) 動詞√asの2人称単数現在形 第一類動詞現在形パラスマイパダ参照
これは、ヴェーダーンタを象徴する格言のひとつです。
3つの単語がサンディにより、つながっています。
以下、単語の活用形の詳細については割愛させていただきます。市販の文法書の活用表をご参照ください。
<第5回>
ヨーガや瞑想をなさっている方の中には、このマントラをご存知の方も多いと思います。
意味: 「虚構から真実へ 暗闇から光明へ 死から不死へ 私をお導き下さい
オーム 平安 平安 平安」
サンディをなくすと、以下の単語になります。
asatah.・・・asat(虚偽、非存在、悪)の単数奪格
ma-・・・一人称単数目的格
sat・・・sat(真実、存在)単数目的格
gamaya・・・第1類動詞√gamの使役形・命令形
tamasah.・・・tamas(闇)の単数奪格
jyotih.・・・jyotis(光)の単数目的格
mr.tyuh.・・・mr.tyuh.(死)の単数奪格
amr.tam・・・amr.tam(不死)の単数目的格
s'a-ntih. ・・・s'a-ntih.(平和、寂静)の単数主格
*格について* 奪格(ablative)
「〜から」にあたる語がとる形です。(出発点、理由など)
*格について* 目的格(accusative)
動詞の目的語「〜を」にあたる語がとる形です。ただし、「行く」など移動を表す動詞の目的地(eg.「町に行く」の「町に」)も、目的格をとります。
リグ・ヴェーダの一節です(1.164.46)
ekam・・・数詞eka「1」の中性形主格あるいは目的格
sat・・・sat「真に存在するもの、真理、真実」の主格あるいは目的格
vipra-h.・・・viprah.「賢者、学者」の複数主格
vahudha-・・・不変化詞「様々に、色々に」
vadanti・・・動詞√vadの現在形三人称複数
意味:オーム 我々ふたりに恩恵をお与えください。我々ふたりをお守りください。
我々ふたりが活力を得ることができますように。
我々ふたりの学びが輝かしいものになりますように。我々ふたりが敵対しませんように。
オーム 平安 平安 平安
サンディをなくすと以下のようになります。
saha 副詞「共に」
nau 一人称両数目的格
avatu 動詞√av「守る、恩恵を施す、etc」の三人称単数命令
bhunaktu 動詞√bhuj「食べる、楽しむ、守る、etc」の三人称単数命令
vi-ryam vi-ryam「活力、勇気、力」の目的格
karava-vahai 動詞√kr.「作る、する」の一人称両数命令
tejasvi 形容詞tejasvin「輝かしい、明るい」の単数中性主格
nau 一人称両数所有格
adhi-tam 動詞adhi√i-「読む、学ぶ」の過去受動分詞の単数中性主格
astu 動詞√as「〜である」の三人称単数命令
ma- 不変化詞「〜なかれ」
vidvis.a-vahai vi√dvis.「憎む、嫌う」の一人称両数命令
「我々ふたり」とは、グルと弟子のことを指しています。
動詞の命令形が5つ出てきます。
avatu、bhunaktuの主語は、明示されていませんが三人称単数ですので「主」(神)です。
karava-vahai、vidvis.a-vahaiの主語は、「我々ふたり」です。
astuの主語はadhi-tamです。
意味: オーム あれも完全である これも完全である 完全から完全が生じる
完全から完全を取り去った後には 完全のみが残る
オーム 平安 平安 平安
サンディをなくすと以下のようになります。
pu-rn.am 形容詞・名詞pu-rn.a(満ちた、完全な)の単数中性主格
adah. 形容詞・名詞adas(あれ、あの)の単数中性主格
idam 形容詞・名詞idam(これ、この)の単数中性主格
pu-rn.a-t pu-rn.aの単数中性奪格(〜から)
udachate 動詞 「ut + √an~c」(引き上げる、送り出す、放つ)の受動態・三人称単数現在
pu-rn.asya pu-rn.aの属格(〜の)
pu-rn.am pu-rn.aの目的格(〜を)
a-da-ya 動詞「a- + √da-」(取る、受け取る、取り去る)の絶対分詞
eva (まさに、ただ、全く)
avas'is.yate 動詞√avas'is.(残す)の受動態・三人称単数現在
a-da-yaは絶対分詞です。「〜して、〜した後で」という従属節を形成し、主節がそれに続きます。
「あれ」とは、属性を持たない至高存在ブラフマンを指し、「これ」とは、属性を有するブラフマンの顕現を指しています。
<第9回>
意味: 世界のすべてが幸せになりますように
loka-h. 「世界」 男性複数主格
samasta-h. 「結合された、すべて、全体」 動詞samas(結合する)の過去受動分詞samastaの男性複数主格
sukhino 「嬉しい、幸せな」 sukhinの男性複数主格sukhinah.がサンディにより変化しています。
bhavantu 「なる、である」 動詞bhuの三人称複数命令形