<第1回> 概説
<第2回> 簡単な例文
<第3回> 名詞
<第4回> 動詞
<第5回> サンディについて
サンスクリット(=梵語)とは、インドの古語です。 ヒンドゥーや仏教の聖典はサンスクリットで口伝され、書き記されてきました。現代では日常的に使われることはありませんが、高い教育を受けた人々の中にはサンスクリットを話せる人も多く、学会の発表などで使われることもあります。インドには多くの言語がありますが、サンスクリットは、そのうちの15種の主要言語の一つとして、国によって指定されています。
文法はとても論理的で、多くの規則があるため難解な言語と言われます。同じインド・ヨーロッパ語族である英語と似ている点も多くあります。また、仏教の影響で、サンスクリットに起源を持つ日本語も意外に多くあります。
文字は、おもにデーヴァナーガリー文字が使われます。現代ヒンディー語と同じ文字ですが、読み方の規則が多少異なります。
<単語例>
サンスクリット(主格) |
日本語 |
マーター |
お母さん |
ピター |
お父さん |
カーカハ |
からす |
ダーナム | 布施、捧物 (「旦那」の語源) |
シャシー | 月 (文字通りには「ウサギを有するもの」の意。) |
アヴァターラハ | 化身 (インターネットの仮想空間における分身のことを「アバター」って言いますね) |
<文例>
クシャウミ (私はクシャミをする)
動詞の語根「クシュ」に、私を表す語尾「ミ」がついたもの。
(注:日本語の「クシャミ」の語源がサンスクリットだという意味ではありません。)
今回は簡単な例文を解読してみましょう。
アハム ブラフマースミ
(訳) 私はブラフマンである。
アハム・・・「私」
ブラフマ・・・「ブラフマン」 ブラフマンという原形が主格になるとブラフマになります。(格の説明は次回。)
アスミ・・・英語のisにあたる動詞。語根のアスが、アハムに対応してアスミになります。
名詞
ドイツ語などと同じく、名詞には性があります(男性・女性・中性)。
例 (主格)
男性名詞 デーヴァハ(神) アシュヴァハ(馬)
女性名詞 デーヴィー(女神) ナディー(川)
中性名詞 パラム(果物) ナーマ(名前)
そして8つの格があります。性、数(単数・両数・複数)によって、また語幹によって、活用形が異なります。
|
例・デーヴァの場合 |
主格 −は、が |
デーヴァハ |
目的格 −を |
デーヴァム |
具格 −で、によって |
デーヴェーナ |
与格 −に |
デーヴァーヤ |
奪格 −から |
デーヴァート |
属格 −の |
デーヴァスヤ |
依格 −で(場所) |
デーヴェー |
呼格 −よ!(呼びかけ) |
デーヴァ |
ちょっと頭が痛くなってきましたね?まだまだ序の口です。
動詞
動詞の種類には、大まかに分けて次のような種類があります。
現在 過去 未来 アオリスト
願望 命令 祈願 完了 条件
さらに、
受動 使役 意欲 強意 といった形になることもあります。
分詞 動形容詞 不定詞 もあります。
いちばんベーシックな現在形を見てみましょう(直説法現在)。
nama-ti (ナマティ) 敬礼する・敬う
aham namaami 私は敬礼する
tvam namasi あなたは敬礼する
sah namati 彼は敬礼する
vayam namaamah 私たちは敬礼する
yuuyam namatha あなた方は敬礼する
te namanti 彼らは敬礼する
主語には、単数(私)・複数(私たち)のほかに両数(私たち2人)もありますが、ここでは省略します。
ちなみに、namatiから派生した名詞namas(敬礼)は、「ナマステー」のnamasです。また、仏教のお経の「南無」も、もとのサンスクリットはnamasです。
サンスクリット文法のほんの一端をご紹介しましたが、さらにお知りになりたい方は、市販のテキストを見てみて下さい。
サンスクリットのテキストや辞書については、リンク集からリンクしている近藤さんのサイト「大歓喜」をご覧になることをお勧めします。
サンディについて
サンスクリットにはサンディという発音規則があります。ふたつの単語(または語幹と語尾)のお尻とアタマがくっついて、ひとつづりとなり、発音も変わってしまうものです。
例を挙げると・・・
a + a = aa ヴェーダ + アンタ = ヴェーダーンタ
a + i = e ナラ + インドラ = ナレーンドラ
a + u = o カタ + ウパニシャッド = カトーパニシャッド
サンディは明確な規則にもとづいており、規則を変化表にして載せている文法書も多いです。なぜこのような規則があるのかといえば、それはサンスクリットが、書き言葉ではなく口述される言葉だったからです。ヴェーダをはじめとする真理の教えは、もとは秘教であり、師から弟子へとひそやかに口伝されるものでした。またそれは、祭祀において朗唱されました。サンスクリットはサンディによって、朗唱するにふさわしい、なめらかな言葉となっているのです。
響きの美しさにひかれて、サンスクリットに興味を持った方も多いと思います。でもいざ文法書を開いてみるとチンプンカンプン・・・ではありませんでしたか?(私もそう。) 「なんでこんなに規則が多いんだー!」と言いたくなるほどですが、複雑な文法規則とサンディ規則によって、簡潔で洗練された響きが生まれているのだと思えば、勉強も楽しくなる!...かな?