Everyday I'm looking for a rainbow.
求める者達 EPISODE:01 2003.01.05


「退屈、だな。」

「お前といるときには、退屈な時にやる事は一つだったんだがな。今思うと、それは退屈じゃなかったのかもしれんが・・・」

風が舞った。

男は、空を見上げる。

「もう、退屈に思うことすら退屈になってきたな・・・」

彼の前には、物言わぬ墓標が一つ、色あせた夕日を浴びてたたずんでいた。





求める者達
- EPISODE:01 -







ここ数年で、世界は誰もが予想もしない形に姿を変えていた。実際に、世界が変わったわけではない。しかし、人々はその見方を大きく変えることとなった。

大陸の東北部に、リーザスという名の国があった。しかし、今は違う。その国がなくなったわけではない。大陸のほとんどが、リーザスという名の国になったのだ。

リーザスは、突然一人の冒険者を、王として迎え入れた。そしてその王は、瞬く間に世界を制圧していった。そう、人間が決してあがらうことができなかった魔人達でさえ、その王を止めることは出来なかった。

リーザスの王となったランスは、怒涛の勢いで人間界を征服すると、その勢いのまま、魔人の森へと軍を薦めた。

立ち向かう魔人達を次々と倒し、人が及ばない所は、今や魔王の城と、その周辺のいくつかの地域を残すのみとなった。もはや世界を統一するのは、時間の問題だと、誰もが思っていた。

そんな折、異世界の人間ながら、訳あってランスの助力をしている健太郎は、そのランスから「しばらく休め」と言い渡された。突然のことに驚いたが、リーザスの宰相とも言うべきマリスから、「来るべき最強の魔人との戦いに備えて、今のうちに体を休めておいて下さい。」とさとされ、なるほどと納得した。

例えリーザス軍が強大であっても、魔人と戦える者は、ごくわずかしかいない。健太郎は、そんなごくわずなのうちの一人だった。





〜 〜 〜 〜 〜






休みをもらった翌日、健太郎は朝からのんびりと、美樹とのおしゃべりに興じていた。

「ねえ、健太郎君。」

「なあに、美樹ちゃん?」

「お休み、どれくらいなのかな?」

「う〜ん、よくわからないけど、まだ1、2週間は休めると思うよ。軍の補充もあるだろうし。」

「それなら、一緒にホ・ラガさんの所へ行ってみない?」

美樹はそう言うと、健太郎の顔を覗きこんだ。

健太郎が戦っている間、彼女は元の世界に帰る方法を探していた。

そしてある時、自分と同世代であるため、良き話し相手になっているメリムから、こんな話を聞かされていた。



「ねえ、メリムちゃん。メリムちゃんて、いろいろな遺跡の事を知ってるんでしょ?」

「まだまだそんなにたくさんじゃないけど、遺跡とか、そういうの好きだから。」

「それなら、何か違う世界に繋がるような遺跡って、見たことある?」

「えっと・・・ごめんなさい、そういうのは見たこと無いの。」

「そう・・・」

そう言って肩を落とす美樹をすまなそうに見ていたメリムだったが、ある事を思い立ち、言葉を続けた。

「あ、でも、大陸の北の果てに塔があって、そこに住んでいるホ・ラガっていう人は、すっごく物知りらしいよ。」

「ふ〜ん。」

その時から、美樹はそのホ・ラガに会って話を聞きたいと考えていた

。後からいろいろな人に会って詳しく聞いてみると、そのホ・ラガという人物は、全ての知識を持っているらしい。

「全ての知識」と言われてもピンと来なかったが、同時に「もしかしたら?」という思いに駆られていた。

そして今回、健太郎に時間があるのを聞いて、彼女はそのことを思い出したのだった。

(最近は戦いばかりで、美樹と二人でどこかへ出かけることはなかったな。だから、ピクニックのような感じで、二人で出かけるのも悪く無いかも。)

そんな風に考えた健太郎は、美樹の提案にうなずいた。

「そうだね、せっかく時間があるんだし、行ってみようか。」

「うん!」

美樹が嬉しそうにうなずくのを見て、健太郎も顔をほころばせた。そして、外出許可をもらいに、二人でマリスの所へ向かった。





数日後、二人はホ・ラガの塔にいた。そしてホ・ラガに会うと、挨拶もそこそこに、自分たちのことやこれまでの出来事など、すべてを詳しく話して聞かせた。

「なるほどのう・・・。」

途中、口を挟むことなく耳をかたむけていたホ・ラガは、それを聞き終えると、大きく息をついた。そして、二人にしばらく待つよう言い残し、愛犬のヨーデルを伴って、書庫に消えて行った。



・・・・・・・



「遅いね、健太郎君。」

「そうだね。もう1時間以上経つと思うんだけど。」

ホ・ラガはヨーデルと共に書庫に入ってから、実際にはかなりの時間が経過していた。

しかし、勝手に書庫をのぞきこんだり、催促したりするわけにも行かず、結局ふたりはほとんど会話もないまま、待つことしか出来なかった。

それからまたしばらくたって、ホ・ラガとヨーデルが戻ってきた。そして、再び二人の前に腰を降ろした。

「元の世界に戻る方法がないこともない。まあ、おまえさん達が呼び出されたときの逆の方法をするのも一つの手じゃな。」

「えっと、それって・・・」

「戻れるってことですか?」

やや反応が送れた健太郎を追い越すように、勢い込んで美樹が聞き返した。

「そういうことじゃ。」

「美樹ちゃん!」

「健太郎君!」

二人は顔を見合わせると、飛び上がって喜んだ。思わず美樹は、健太郎にひしっと抱き着いてしまった。

これまでは、帰る為の手がかりすらつかめなかったのだが、ひょんなことから得た情報から、突然目的が達成できてしまったのである。

この世界でずっと魔物たちに追われ、望みもしぼみかけていた二人にとって、降ってわいたような幸運だった。

「それで、どうやったら戻れるんですか?」

美樹に抱きつかれて赤くなりながらも、健太郎は話を進めた。

「それは言えぬ。」

「えっ?」

二人は予想もしなかった答えに、硬直してしまった。まるで、何を言われたのか理解できない、といった風であった。

「そ、それはどうしてなんですか!」

先に立ち直った健太郎は、ホ・ラガに掴みかからんばかりの勢いで続けた。

「どうして教えてくれないんですか!。僕に出来ることだったらなんでもしますから、教えてください!」

「ふむぅ、君のような美しい青年にそう言われるのは、非常に嬉しいことなんだがのう。」

ホ・ラガの嗜好を知っている者であれば、この答えに驚いたに違いない。彼は美しい同性に目が無い。そして今、彼の前にいるのは、まだあどけなさを残した、奇麗な顔立ちの青年だからである。

しかし、この時のホ・ラガの目に宿っていたのは、喜びではなく、哀れみの色であった。

ホ・ラガは軽くため息をつくと、まだ立ち尽くしたままの美樹に、視線を移した。

「お主、魔王だと言ったな。間違い無いか。」

「は、はい。そうだと思います。」

「それが理由じゃよ。」

「そんな・・・」

美樹はよろよろとあとずさると、力なく座り込んでしまった。慌てて健太郎が駆け寄る。

そんな二人を見て、ホ・ラガは淡々と続けた。

「魔王をこの世界から出すわけにはいかぬ。たしかに魔王は人間にとって脅威でしかないが、魔人や魔物にとっては必要なものじゃ。つまり、この世界の秩序を保つ存在でもある。それを無くしたらどうなるか、言わずともわかるじゃろう。それだけではない。人で無いおまえさんを、元の世界の人間たちは、簡単には受け入れてはくれないのではないのか。」

そう言われると、二人に返す言葉は無かった。

今、この世界で人と魔人、そして魔人同士が争っているのは、魔王の存在に一端がある。特に魔王である美樹は、この世界にとってかなりの影響を及ぼす存在でもある。

また、魔王のままでは、元の世界に帰ったところで、元の生活が戻るわけではない。魔王である限り、人とは違う生活を強いられることになる。

ここに来て、二人はようやくそのことに思い至った。

しばらくその場を沈黙が支配した。そして、その沈黙を破ったのは、健太郎の一言であった。

「それじゃあ、美樹ちゃんが魔王で無くなったら、帰る方法を教えてもらえますか?」

「健太郎君・・・」

美樹は驚いて顔をあげると、そこには真剣な表情の健太郎の顔があった。

「魔王であるから帰れないないのなら、魔王でなければ帰れる、ということですよね。」

「・・・ああ、そういうことじゃ。」

「それなら、美樹ちゃんが魔王でなくなったら、またここに来ます。」

そう言うと、健太郎は美樹の手を、ぎゅっと握り締めた。

「・・・わかった。その時はわしがお主等を、元の世界に戻してやろう。」

呆然としている美樹の手を握ったまま、健太郎は深々と頭をさげた。





「ねえ、健太郎君。魔王じゃなくなる方法なんてあるの?」

ホ・ラガの塔を出ると、それまで黙っていた美樹が、おもむろに口を開いた。

「わからないさ。」

「・・・。」

「でも、戻れることはわかったんだ。今はそれを喜ばなきゃ。」

そう言うと健太郎は、美樹の正面に立ち、彼女に言い聞かせるように続けた。

「これからは、魔王じゃなくなる方法を考えよう。二人で考えれば、きっと何か思いつくよ。そして、二人で元の世界に帰ろう!」

「うん、そうだね。二人で一緒に帰るって、約束したもんね!」

二人はようやく笑顔になると、しっかり手を握りあって、リーザス城へと戻って行った。



その様子を塔から見ていたホ・ラガは、おもむろに口を開いた。

「世界が動きそうな予感がするのう。そう思わんか、ヨーデル。」

「バウッ!」。

世界が動いても自分たちは変わらない、そんな雰囲気を漂わせながら、ホ・ラガは再び愛犬と戯れるのであった。




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