Everyday I'm looking for a rainbow.
求める者達 EPISODE:02 2003.01.05


その様子を塔から見ていたホ・ラガは、おもむろに口を開いた。

「世界が動きそうな予感がするのう。そう思わんか、ヨーデル」

「バウッ!」。

世界が動いても自分たちは変わらない、そんな雰囲気を漂わせながら、ホ・ラガは再び愛犬と戯れるのであった。





求める者達
- EPISODE:02 -






「うんしょ、うんしょ」

ここはリーザス城の一室。小奇麗な調度品に囲まれる中、真紅の髪の小柄な女性は、彼女の数倍もあるガーディアンと共に、土をこねていた。

今は、彼女の特技でもあるガーディアンメイクの真っ最中である。

「う〜ん、いまいちうまくいかないなあ。ねえシーザー、ちょっと休憩するから、なにか飲むものもってきて」

「ワカリマシタ、サテラサマ」

忠実なガーディアンであるシーザーが部屋を出ると、それまで穏やかだったサテラの表情が一変した。

おもむろに立ち上がると、窓の方に鋭い視線を向けた。

「誰!。サテラと戦うつもりなら、本気で相手するぞ!」

一見、勝気な少女にしか見えないサテラだが、戦いにのぞむその姿は、普通の人間を失神させるだけの迫力がある。

それはただ彼女が魔人であるということだけではなく、それなりの場数を踏んでいる証でもある。

「ファイヤーレー・・・」

「久しぶりね、サテラ」

先手必勝とばかりに魔法を放とうとしていたサテラの動きが止まった。それは、相手の台詞によるものではなく、その姿に、そしてそこから放たれる気に絶句したからである。

「シルキィ・・・。本当にシルキィなの・・・?」

サテラの前に姿を現したのは、彼女と共にホーネットを支えていたシルキィである。

もともとシルキィは、サテラよりもずっと小柄で、華奢な体格をしていた。

また、レベルは低くないものの、レベル2の技能は魔物合成という、直接戦闘にかかわるものでないため、相手を威圧するような気はもっていなかった。

しかし、今サテラの前に居るのは、わずかに以前の面影だけを残した別人であった。

疲労の色が濃く、顔色も良くなかった。綺麗だった水色のショートヘアも、すっかり艶がなくなり、乱れたままだった。

なにより大きく違ったのは、シルキィのまとう気が、サテラでさえおもわず後ずさってしまうほどの、圧倒的なものに変わっていた。

「ふふふ、ちょっと変わったかしら。サテラは元気そうね」

「変わったかしらって・・・、ちょっと、どうしたのよ、その姿は!」

「他にどうすることも・・・うっ」

そこまで言うとシルキィは力なく崩れ落ちた。

サテラは慌てて駆け寄ると、シルキィを抱きかかえた。

「大丈夫、シルキィ」

「あんまり大丈夫じゃないわ。でも、こうするしかなかったの」

「この気配・・・まさか・・・」

「そう、他の魔人の魔血魂を飲み込んだわ」

「どうしてそんなことしたの!無茶よ!」

「ホーネット様をお救いするには、こうするしか方法がなかったのよ」

「そうだ、ホーネットは?ホーネットはどうしたの?」

しかし、シルキィは、顔をそむけてその問いには答えなかった。そして、サテラの手を押しのけてよろよろと立ち上がると、再び窓のほうへ歩き始めた。

「サテラ、後のことをよろしくね。もし私がケイブリスに勝てなかったら、その時はあなたがホーネット様をお救いして。今はそれだけを言いに来たの」

「待って!」

サテラはシルキィを後ろから抱きかかえて、言葉を続けた。

「無茶よ!いくらシルキィが魔血魂を飲んだからといって、ケイブリスに勝てると思ってるの?。あいつは、凄く嫌な奴だけど、あたし達よりずっと強いんだよ」

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

それまで冷静だったシルキィが、サテラに顔をむけると、堰を切ったように話し出した。

「どうすればホーネット様を助けられるの!。こうしてる間にも、ホーネット様はケイブリスに・・・。それを止めることが出来なかった私には、こうするしかないのよっ!」

そして、その場には、ただ二人の荒い息の音だけが響いた。





サテラは何とかシルキィを落ち着かせると、何かを考え始めた。

シルキィは黙って、サテラが口を開くのを待った。

やがてサテラは決意を固めると、まっすぐにシルキィの目を見て言った。

「ねえシルキィ、私に、考えがあるんだけど・・・」





〜 〜 〜 〜 〜






「くそう、今回はいなかったか」

「キレイなねーちゃんが見つからなかったのは残念じゃのう」

ここは自由都市であったレッドの街。

きまぐれに臨時徴収を行ったが、目当てとしていたハーレム行きの女の子は見つからなかった。

マリスに言わせると「そのための臨時徴収ではありません」とのことだが、ランスにとっては女の子を探す程度の目的でしかなかった。

「ちっ、つまらん。こうなりゃセルさんの顔でも見ていくか」

「おおぅ、あの教会のねーちゃんか。あの清楚なねーちゃんの中にどばーっと」

「うるさい、往来で余計なことを言うんじゃねえ。この馬鹿剣」

そう言うと、ランスは腰に差していたカオスの目を、2本の指でぶすっと突き刺した。

「ぐあ〜、目が〜。ワシをなんじゃと思ってるんだ。もうちょっと丁寧に扱わんかい」

「すこし黙ってろ。この馬鹿剣が」

ランスとカオスはお互いに文句を言い合いながら、セルの教会へと向かった。





「ようこそいらっしゃいました。今日こそは懺悔をしていかれますね?」

ランスが教会に入ると、嬉しそうにセルが迎えた。

「ランスさんも王様になったんですから、少しは正しい行いを・・・」

「あ〜、わかってるわかってる。それはそうと、今日はちょっとセルさんに聞きたいことがあって来たんだ」

「聞きたいこと、ですか?」

セルは驚いた表情を浮かべた。今までランスが教会に来るときと言えば、特に用も無く、下品な話をして困らせて帰るだけだったからだ。

だが、今日は今までとは少し勝手が違うらしい。

「ああ。別に深い意味があってのことじゃないんだが・・・」

そこまで言うと、ランスはセルから視線をはずした。

「なあ、セルさん。人って死ぬとどうなるんだ?」

「死ぬと、ですか?」

予想外の質問にとまどっていたセルだが、視線を合わせようとしないランスに何かを感じたらしく、目を閉じると、おもむろに話し始めた。

「人は皆、必ず死んで行く運命にあります。人だけでなく、死はモンスターやカラーといった、他の種族にも等しく訪れるものです。そして、そのすべては、死ぬと神の元に召されて行きます。そして、神によって魂を浄化され、ふたたび生を受けて、生まれかわるのです」

「ふ〜ん。生まれ変わる、ねえ・・・」

そしてランスは再びセルと視線をあわせると、こう続けた。

「それじゃ、なんだ、死んだものはみんな生まれ変わって、またここに来るのか?」

「ええ、そういう事です。例えどんなに悪いことをした人であっても、神によって魂を清められ、またこの世界に戻ってくるのです」

「それじゃあ聞くが、一体死んでどのくらい経ったら、生まれ変わるんだ?」
「それは・・・」


セルはそこで悩んだ。人が輪廻を繰り返すのは、神の教えにもあるものだった。しかし、その周期までは、彼女にもわからないことだった。

「それは、わかりません。10年先か、20年先か、それとももっとずっと先のことなのか。ただ言えることは、その人のことを覚えている人がいなくなった頃に、生まれ変わるということです」

「なんだ、それは」

「よく、生まれ変わってまた会いましょう、そんな事をいうでしょう?。それは、お互いが死んで、それから生まれ変わり、まためぐり会うことなんです。つまり、片方が生きている間は、再び会うことは無い、そういうことだと思います」

セルは一言一言、言葉を選んでランスに伝えた。そして最後に「これはあくまで私の考えていることなのですが」とも付け加えた。

それを聞いたランスは、あごに手をあてて何かを考えている風だった。

しばらくして、彼の口からでた言葉は、セルの予想もしないことだった。

「よくわからんが、要するに、片方が生きてる間は生まれ変わらないってことは、百年ぐらいは生まれ変わらないってことだな」

「ええと、一応それで間違ってはいませんが・・・」

「逆にだ。片方が確実に死ぬぐらい先、そう、千年ぐらい生きてれば、また会えるって事だな」
「いえ、あの、それはちょっとわかりませんが・・・」

「ありがとう、セルさん。それじゃまた来るからな」

「待たんかい、ワシはまだ神官のおねーちゃんとウハウハしとらんぞ」

しかし、何かを見つけたように子供のように嬉しそうな表情を浮かべたランスは、カオスの言うことなどに耳をかさず、ガハハと笑うと、教会を後にした。

「ちゃんと伝わったのかしら・・・。ああ、神様、私は正しいことをしたのでしょうか・・・」

後には一人思い悩む神官だけが残されていた。





「なあ、カオス」

「なんじゃ」

教会をでてしばらくして、ランスは歩きながらカオスにたずねた。

「お前、かなり長い間生きてるんだろう?」

「そうだのう、もう千数百年は生きとることになるんじゃろうな」

「その間に、生まれ変わった奴に会ったことってあるか?」

カオスはしばらく何か考えている風であったが、こう答えた。

「ワシにはそういったことはないのう。長い間封印されていたせいもあるじゃろうし、何より生まれ変わっても会いたいような相手にめぐり会うことはなかったからのう」

「そんなもんか・・・」

そして二人はまた、黙々と歩きつづけた。

やがて、リーザス城が見えてきた頃、ランスは再びカオスに尋ねた。

「なあ、千年生きるってのはどういうことなんだ?」

「・・・退屈じゃよ」

「退屈?」

「ああ。ワシは魔王を倒すために、この姿になったのは知っとるじゃろう。じゃが、魔王を倒してから、次の魔王が人に害をなすまで、ただ待つことだけしか出来ぬからな。特にワシは日光と違って、自分の意志で動くことは出来ぬしな」

「そうだったな・・・」

「ワシはお前さんに会えて感謝しとるよ。この体になってから、ずっと退屈じゃった。じゃが、お前さんに会ってから、ちっとも退屈せんで済むからの。退屈さえしなければ、この世界も、この体も、そう悪いものではないからのう・・・」

そんなカオスに、ランスはあいまいに頷いた。

「しっかし、最近はまたお主がねーちゃんをケチりだしたから、退屈じゃのう。ハーレムにいる女の子を、少しはわしにも分けてくれたっていいじゃろ」

「うるさい、あれはみんな俺様のもんだ。お前に上レベルの女の子はもったいない」

「そんなことはないぞ。何年生きていても、ワシの心のちんちんは少しも衰えてないからの」

「黙れ、この馬鹿剣が」

いつもの調子を取り戻したランスに、ほっとしたカオスだったが、何か予感めいたものを感じていた。

(あまり悪い方にいかねばいいんじゃがのう・・・。シィルちゃんがいない今、お主を押さえられるのは・・・)

そんなカオスの思いを知ってから知らずか、ランスはいつもの調子で、リーザス城へと戻って行った。




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