Everyday I'm looking for a rainbow.
求める者達 EPISODE:12 2004.08.22



先に立ち直ったホーネットは、表情を正した。

「魔王城は私がなんとかします。シルキィは急いでイオウの森にいる軍を城に戻して。今この魔王城は非常に守りが手薄だから。」

通常、魔王城は最も堅固な場所である。それは魔王がいて、それを取り巻く無数の魔人・魔物が存在するからである。

しかし今の魔王城は、魔人が3人だけ。おまけに魔物たちは魔王になったランスがあらかた消し去っており、極めて脆弱な場所となっていた。

「わかりました、ホーネット様。すぐに戻って参ります。」

聞くや否や、シルキィもすぐに魔王の間を飛び出していった。

「メガラスはケイブリスに付いていた魔人たちの状態を探って頂戴。」

「・・・承知。」

メガラスも窓から飛び出していく。

そしてホーネットも、残った魔物に魔王城の再構築を命じるため、急ぎ足で魔王の間を出て行った。




求める者達
- EPISODE:12 -






地を走る影がある。

だが、それに気づき空を見上げる者があっても、そこには青い空が広がるだけ。

まさに疾駆する言葉が似合う速さで、ランスとサテラは空を飛んでいた。

「がはは、慣れてみると、この空を飛ぶというのは思いのほか気持ちが良いもんだな」

「そ、そう」

かたや息も絶え絶えといった感じのサテラ。

それもそのはず、魔王となったランスの速さはサテラのスキルを遥かに凌駕している。

もちろんランスは気まぐれに時折高度を上げ下げしてみたり、ジグザグに飛んで見たりしているのだが、サテラは一直線に飛んで置いていかれないようにするのがやっとである。

「さて、どこに行くかな」

「えっ、ランスはリーザスに行くんじゃないの?」

「まあな。だが、別に急ぐ必要は無いしな。それより、この興奮を沈めなけりゃならん」

「まさか、こんなところで」

何を勘違いしたのか、一瞬にしてサテラの頬は真っ赤になる。

だが、そんなサテラに気づくことなく、ランスは何の前触れもなしに軽く手を振った。

すると、ちょうどランスの下に広がる地面が、突然浮き上がるようにして―――



ドゴォォォォォォォォォォ・・・・



何も無くなった。

元々荒地で枯れ木や大きな岩がゴロゴロとしていた所である。

それが、直径10メートル程だろうか。

そこだけ砂漠になったかのように、何も無い更地になっていた。

「すごい・・・」

唖然とするサテラ。

だが、ランスは浮かない顔だ。

「まったく駄目だ。」

サテラは驚いてランスの顔を覗き込んだ。

するとランスは、口をむっとさせて、何か力を確かめるように、拳を握ったり開いたりしていた。

「なにが駄目なんだ、ランス」

「こんなもんじゃおさまらん」

そう、ランスが魔王となってからもう2日が経っている。

そのため、徐々に体に馴染んできた魔王の血が、とどめない力をランスにもたらしていた。

それは、スコールによって一気に水分を吸収したひまわりとでもいうのだろうか。

ひまわりであれば、みなぎる力で大輪の花を咲かせる。

ランスは力の放出というカタチで、自らにわきあがる力を発散させようとしていた。

しかし、今のランスの力の放出は、ただ単に気を放っただけ。

その程度では、体にみなぎる力の、ほんの1パーセントの放出にもならなかった。

「こんな石ころを蹴散らしても仕方ない。もっと思い切り力を使えるところは無いか」

「急にそんなこと言われても」

慌てるサテラをよそに、ランスはしばし考えた。

そして、イタズラを思いついた子供のようにニヤリと口元に笑みを浮かべると、ランスは口を開いた。

「ようし、ゴミ掃除といくか」

そして、サテラに質問の間も与えず、一直線に目的地へと向かった。





〜 〜 〜 〜 〜






裏番の砦。

魔界とヘルマンの境にある砦の側には、小さな山があった。

山といっても、人が観光に訪れるような場所ではない。

それどころか、木々すらはえていない。

ただ土が盛られ、山のようになっているというだけの場所である。

「まさにゴミを埋め立てた場所だな」

眼下を見下ろし、ランスはつぶやいた。

「どうするの、こんな何も無いところに来て」

「ゴミ掃除と言っただろう。醜いものを取り除くだけさ」

今ひとつ意味を掴みかねるサテラに、今度は逆にランスが問いかけた。

「なあサテラ。魔王の力で何か特別なことは無いのか?」

「特別なことといっても・・・基本的には不死であるだけで、あとは無尽蔵の魔力を有していることぐらいかな」

「そうか、魔力か。魔法が使えるってことだな」

そしてランスはニヤリと笑うと、ゆっくりと腕を上に上げ、力を込める。

するとそこに、白い光が収束していく。

「魔法を使うなんてのは久しぶりだが、なんとかなるだろ」

光の玉は、あっというまに直径5メートルを超えた。

そのまぶしさに、サテラは眼を細めた。

「ファイヤレーザー!!!」



振り下ろされる手。

光は音も無く、乾いた土に吸い込まれていく。

・・・・・

・・・



ドゴッッッッ!

地が湧き上がり、隙間から白い光が天に伸びる。

そして、地が、溶けた。

「まさか、そんな・・・」

サテラの前で、それまで乾いていたはずの土が、煮えたぎる溶鉱炉に放り込まれたかのように溶けていく。

ぐつぐつと溶けた土が広がり、やがて火山の噴火口のようにカタチを変えた。

「すごい・・・」

煮えたぎる火を覗き込んで、サテラは小さくつぶやいた。



『ォォォォォォォォォ・・・』

地の底から、うめきとも悲鳴とも取れるくぐもった声が響いた。

不審に思ったサテラはランスの方を見てみたが、相変わらずランスはにやにや笑ったまま。

火の勢いはやや収まったものの、噴出す煙でかえって視界が悪くなっている。

「何なのよ、今のは」

サテラは顔をしかめて、その原因を確かめようとゆっくりと降りてゆく。

ヒュン!

「きゃ!」

「おっと」

思わず顔を覆ったサテラの耳元で、パシンと小気味良い音がした。

恐る恐るサテラが目を開けると、真っ赤な赤い玉が目に飛び込んできた。

「魔血魂じゃない!」

「ああ」

「な、なんで?」

「そりゃあ、そのためにやったんだからなあ」

混乱するサテラをよそに、ランスはしてやったりとした表情を浮かべていた。

魔血魂。

魔人にとって、それは命の象徴。

体はかりそめの物でしかない。

魔力さえあればいくらでも取り換えがきく物である。

だが、魔血魂は小さくても、魔人の核となるものである。

それがランスの手元にあるということは、一人の魔人が仮初であっても、体を失ったということである。

誰か、と問いかけるサテラを遮り、ランスは答えた。

「でっかいのがいただろう。泥人形みたいな奴が」

魔人バボラ。

その巨体を活かし、傍若無人に人間領に進んできた魔人である。

魔剣カオスを持つランスも真っ向から勝負することはできず、結局この地に落とし穴を掘ることで排除した魔人である。

ある意味、人間だったランスが勝てなかった魔人でもある。

それを、魔王となったランスはただの一撃で片付けてしまった。

それも、魔剣を使うことなく、力試しの魔法で。

「・・・」

魔王の力。

もちろんはじめて見るわけではないが、その力の前に、サテラはただ圧倒されるばかりであった。





〜 〜 〜 〜 〜






「まあ、こんなものか」

魔人バボラの魔血魂を飲み込むと、ランスは嬉しげに言った。

こんなものと言いながら、その実ランスは満足していた。

放ったファイヤレーザーは、今ランスが放てる最高のもの。

まだ魔王の血に体が馴染んでおらず、魔法を使いこなすことも出来ない現状では、本来の威力の半分にも満たないのかもしれない。

だがランスは、戦士だけが理解できる力を使った後の心地よい爽快感に、充分満足していた。



一方、サテラも満足していた。

なぜなら、飛んできた魔血魂を避けた時から、サテラはランスに抱きかかえられたままだったから。

ちょうど肩と両足を抱えられ、その頭はランスの胸の辺りに。

俗に言うお姫様だっこである。

―――なんだか、こういうのを幸せって言うのかも。

そんなサテラに、そっとランスは耳打ちした。

「さっきの悲鳴、ちょっと可愛かったぞ」

「なっ!」

真っ赤になって反論しようとするサテラだが、そうはさせまいとランスは軽くサテラの耳を甘噛みした。

それだけでぶるっとサテラは全身を振るわせた。

それを見てランスは満足げに頷くと、サテラを抱きかかえたまま、新たな目的地に向かって飛び立っていった。

地は乾き、後には再び荒涼とした静寂だけが残された。



PostScript
一応補足を。
このSSでは、ランスは魔法を使うことが出来る設定にしてます。
ゲーム中(ランス1、5D)でも魔法を使うことは出来ましたし、魔法を使えない魔王というのも格好つかない気がしたので。
ルドラサウムの作った世界の中で、魔王というのはある意味頂点にいるわけで、少なくとも能力的に明からかな欠如は無いのかなと思っていますし。

まあ、これは言い訳で、結局自分の好きな世界観にちょっと変えているだけです。
別にランスを魔法使いにするつもりはありませんので、大目に見てください(苦笑)。

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