Everyday I'm looking for a rainbow. |
求める者達 | EPISODE:11 2004.05.08 | |||||||||
「おい、ホーネット。お前はさっきからガイがどうこうと言うが、お前の考えはどうなんだ?」 「私の考えですか?」 「ああそうだ。ガイが人間に不干渉という考えを持っていたのは知っている。だが、お前はどうなんだ」 「私の・・・考え?」 ホーネットは、2度3度と目を瞬かせた。 (私・・・私は、どうしたかったのだろう。ただ、父がそう望んだから。いや違う、私もそう思って・・・。) どこか呆けたような表情を浮かべるホーネット。 ランスはニヤリと笑うと、いきなりホーネットの顎に手をかけ、その唇を奪った。 「あっ・・・」 驚きで目を見開いているホーネットをよそに、ランスはその口を蹂躙する。 2〜3分もそうしていただろうか。 ランスはゆっくりと唇を離した。 ホーネットは驚きを顔に張り付かせたまま、固まっていた。 「おい、ホーネット。次に会う時までには、自分の考えを用意しておけ。もし無かったら、黙って俺様に従うんだぞ!」 そう言って、ランスは再びガハハと笑い、部屋を出て行った。 後には唇に手を当て、やや頬を上気させているホーネットだけが残された。
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絢爛な椅子に、一人の男が腰を降ろしている。 その後ろに控えるように、赤毛の女性が直立している。 正面には、圧倒的な気を纏った者達が立ち並んでいる。 そこは、魔王の間。 これまでの魔王やケイブリスが使用していた、広く天井の高い部屋ではない。 やや小さ目の部屋。 部屋の小奇麗さから、元々は宝物庫のような使われ方をしていたらしい部屋。 ただ、今は金を散りばめた窓枠や、大きなステンドグラスがその面影を残すのみ。 そして今はその中央に、魔王が腰掛けている。 魔王が座する場、それこそが「魔王の間」なのである。 ランスの正面に、無表情な魔人が歩み寄ってきた。 「上手くいったか?」 その問いに、ヨーゼフの元に美樹たちを送り届けてきたメガラスははっきりと頷いた。 「よし。これでひとつ片がついたな。ちょっともったいなかったが、元々美樹ちゃんはこの世界の人間ではないしな」 「そうよ、元々部外者なんだから、これで良かったのよ」 大仰にうなずくランスと、それに追随するサテラ。 ホーネットは、どこかホッとした表情を浮かべていた。 そんなホーネットを、シルキィは複雑な面持ちで見つめていた。 「さて、言うまでも無いが、魔王はランスになった。皆は新しい魔王ランスに忠節を・・・」 「もう、サテラ、そんな演説ぶらなくていいから」 (これからは何事も自分が) そう思いはりきってサテラは切り出したのだが、サイゼルは聞く耳をもたないと言った感じで横槍を入れてきた。 サテラにして見れば、今こそ自分がランスの最も側にいる者だとアピールしたかったのだが、サイゼルにはどうでもよいことでしかない。 「なっ、なんで」 「昨日ランスが今まで通りで良いって言ったじゃない」 「だけど」 「かまわん」 引き下がろうとしないサテラを、ランスが軽く手を挙げて制した。 そして、ドカッと足を組んでから口を開いた。 「固っ苦しいのはリーザスだけで十分だ。それから、魔王だかなんだか知らないが、これからは俺様が世界を統一する。それは魔王だからではなく、俺様だからやることだし、出来ることでもある。お前らは、ただ俺様のためだけに働け」 そう言って、鋭い視線を放った。 その目を見た瞬間、ホーネットは自然と頭を下げていた。 ホーネットだけではない。 その視線を受け止めきれず、そこにいる全ての魔人が頭を下げていた。 (なんていう勢いなのかしら。これが魔王?。いいえ、これはあの方自身が持っている力に他ならない。) ホーネットは改めて、ランスの底知れない力を思い知らされた気がした。 「ところでホーネット」 「はいっ!」 はじかれたようにホーネットは顔を上げた。 「考えはまとまったか?」 その問いに、ホーネットははっきりと答えた。 「いいえ。我々と人間がどのような関係を築くべきか、私には未だわかりません。ただ父の、前の魔王に従うだけしか出来なかった私は未熟で、その答えを出すことは出来ません」 軽くうなずいて、ランスは目で先を促した。 「ですから、私は魔王ランス様と共にあり、お側で働くことで、その答えを探して生きたいと考えております」 「じゃあ、俺様について来るんだな」 そう言って、ランスはにやりと笑った。 「楽しみにしているぞ」 「はい」 ランスから真っ直ぐな視線を向けられたホーネットは、少し頬を紅潮させながら、そう言って頭を下げた。 その様子を、サテラが面白くなさそうな顔で見続けていた。 (もー。心配したとおり。なんでこうランスってば、簡単に相手を引き付けちゃうんだろ。ホーネット様もホーネット様で、コロッと変わりすぎ!) 「そうむくれるな、サテラ。後でたっぷり可愛がってやるから」 「なっ、サテラは別に」 後ろに立っているため、まさか気づかれているとは思わなかったのだろう。 サテラは顔を真っ赤にさせながら、ぶんぶんと首を振った。 「もちろん、ホーネットもシルキィも一緒にな」 そう言って、ランスはがははと笑う。 それにはホーネットもシルキィも、真っ赤になってうつむいてしまった。 「で、これからどうするかな」 落ち着いたのを見計らって、ランスが口を開いた。 「それにしても、どうにもこの城はリス臭くてかなわんな」 そう言って、ランスは顔をしかめた。 確かに、最近はケイブリスが篭っていた事もあり、魔王城は決して清潔な場所とは言えなかった。 「そうねえ、確かにリーザスのお城は白くて綺麗で、私とハウゼルのお部屋もメイドさんが毎日お掃除もしてくれたしね」 サイゼルもうなずいた。 「良し、決めた!」 ランスは立ち上がると、マントを翻して歩き出した。 「リーザスに戻る」 これにそこにいた魔人たちも血相を変えた。 「ちょ、ちょっと待ってよ、ランス」 「なんだサテラ」 「なんで、なんでよ!なんでもう魔王城を捨てて、リーザスに帰るの?あんなひ弱な人間達のどこがいいのよ!?」 涙目になってくってかかるサテラに、ランスは首をかしげた。 「誰が魔王城を捨てると言った?」 「えっ、だって今・・・」 「俺様は単にここがリス臭いから嫌なだけだ。まあ、リーザスに行く理由は他にもあるがな」 展開についていけずにおろおろする魔人たちを、ランスは笑い飛ばした。 「がはは、いいかお前ら。俺様が戻るまでに、魔王城を俺様にふさわしい城にしておけよ。リス臭いままだったらおしおきだからな」 そう言い残すと、ランスは再び歩き出した。 「私も一緒に行く!」 慌ててサテラもその後を追う。 「「私も!」」 ホーネットとシルキィもその後と追おうとした。 「お前たちは駄目だ」 「どうして・・・」 そう言って立ち竦むホーネット。 「お前たちはまだ病み上がりだ。連れて行っても足手まといにしかならん」 「そんな・・・」 シルキィはがっくりとうなだれた。 確かに、今の自分たちでは、足手まといにしかならないかもしれない。 頭ではわかっているのだが、そう易々と納得できるものではなかった。 そんな二人の心の内を知ってか知らずか、ランスはニヤリと笑った。 「いいか、お前ら。城を綺麗にするのもそうだが、お前ら自身も綺麗にしておけよ。でないと可愛がってやらんからな」 そう言って再びがははと笑った。 今度は一気に紅くなるホーネットとシルキィ。 それを見てムッとしたサテラは、窓に走りよって、振り向きもせず叫んだ。 「ランス、早く行くよ!」 「おぅ」 そして二人は窓から飛び出し、たちまちの内に見えなくなった。 ホーネットとシルキィは窓に歩み寄って、名残惜しそうにランスの去った方を見つめている。 それを見て、サイゼルがやれやれと肩をすくめた。 「ま〜ったく、いつまでたそがれてるのよ。あんた達にはやることがあるでしょ。ランスに可愛がってもらいたいんでしょ」 「ね、姉さん」 慌てて止めに入るハウゼルだが、気にせずサイゼルはその腕を掴むと、魔王の間を出て行った。 「私とハウゼルの部屋は一緒で良いからね〜」 そう捨て台詞を残して。 「そ、そうね。私たちも魔王様のために動かなくては」 先に立ち直ったホーネットは、表情を正した。 「魔王城は私がなんとかします。シルキィは急いでイオウの森にいる軍を城に戻して。今この魔王城は非常に守りが手薄だから」 通常、魔王城は最も堅固な場所である。それは魔王がいて、それを取り巻く無数の魔人・魔物が存在するからである。 しかし今の魔王城は、魔人が3人だけ。おまけに魔物たちは魔王になったランスがあらかた消し去っており、極めて脆弱な場所となっていた。 「わかりました、ホーネット様。すぐに戻って参ります」 聞くや否や、シルキィもすぐに魔王の間を飛び出していった。 「メガラスはケイブリスに付いていた魔人たちの状態を探って頂戴」 「・・・承知」 メガラスも窓から飛び出していく。 そしてホーネットも、残った魔物に魔王城の再構築を命じるため、急ぎ足で魔王の間を出て行った。 |
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