Everyday I'm looking for a rainbow.
聖杯のキモチ 後編 2004.06.06



「士郎は私のモノなんだから、勝手に決めるな!」



うわぁ、まさかこの場でそんな爆弾を落とすとは。

桜は顔面蒼白。

藤ねえは・・・酸欠の金魚のように、口をぱくぱくさせている。

あ、泡吹いて倒れた。

介抱しようかと思ったが、止めておいた。

なんていうか、この場は現実逃避した者の勝ちな気がする。

俺も逃避したいんだけど、遠坂さん、なんですかその目は。

その『全て士郎のせいなんだからね!後はなんとかしなさい』と、雄弁に物語っている目は。

というか、俺のせいか?

ここぞというところで大ポカをする遠坂のせいとしか思えないのだが・・・。

ただ、言った後に真っ赤になって慌てふためく遠坂は、日頃のきりっと姿とのギャップが激しくて、ちょっと可愛い。

思わず笑みが浮かんでしまう。

それを見た遠坂は、さらに赤くなってそっぽを向いてしまった。



さて、この場はなんとかしないとまずいよなあ。

桜の視線が段々きつくなってきたし。

とはいえ、気のきいた台詞なんて思い浮かばない。

ここは無難に行くか。



「いや、俺は別に誰のものでもないけど・・・」



そう言った瞬間、セイバーはホッとした顔に、桜はどこか勝ち誇った顔に、そして遠坂は・・・うわ、睨んでるよ。

殺気込め過ぎ。

目からガント撃てそうな勢い。

これならライダーの魔眼だって跳ね返すんじゃないだろうか。

喜べ遠坂、キミはここで新たなスキルを手に入れたよ。

・・・そんな事言った瞬間、ホントにガント撃たれるんだろうけどな。





聖杯のキモチ
- 後編 -






私は頬が緩んでいくのを止められなかった。

『俺は誰のものでもない』

先輩は確かにそう言った。

さっき姉さんが先輩を自分のもの扱いしたときは、心臓が止まりそう・・・いえ、姉さんの心臓を止めてやろうかと思ったけど、やっぱり違うみたい。

最近妙に仲が良いのはわかってたけど、姉さんが先走っているだけ。

そうに違いない。

その証拠に、姉さんは先輩を睨みつけているけど、先輩は困った顔をしている。

そうとわかれば、ここからは形勢逆転。

今のうちに、姉さんの暴走を止めなくては。



「遠坂先輩、何勝手なこと言ってるんですか。先輩が困ってるじゃないですか」

「・・・っ」

「先輩は誰のものでもありません」

「むぅ」

「強いて言えば、先輩に相応しい人ならばそう言えるのかもしれませんけどね」

それを聞いた姉さんは、さっきまでのしまったという表情が一変し、勝ち誇った顔を向けてきた。

そして髪をかきあげて胸をそらす。

「あらそう、桜。なら間違ってないじゃない」

「何がですか?」

「士郎に相応しければ、士郎を自分のものと言っていいわけでしょう?。この私以上に士郎に相応しい者なんて、いやしないじゃない」

「なっ!」

「そうよね、士郎」

先輩は・・・あっけに取られてる。

まったく、姉さんはどこまで先輩を困らせれば気が済むのだろう。

「正気ですか?さっきから先輩を困らせているだけの遠坂先輩が先輩に相応しいなんて、とても思えません」

先輩に相応しいのは、ずっと先輩を影に日向に支えてきた私しかいません!

それに、そんな貧相な体で、先輩を満足させられると思ってるんですか、姉さんは。

だいたい、ここ数日でいきなり現れた泥棒猫に渡してたまるもんですか!



そんな私の気持ちが伝わったのか、姉さんの表情がだんだん険しくなってきた。

「じゃあ聞くけど、士郎に相応しいのは誰なのよ?」

「それは先輩が選ぶことです。もっとも、先ほどの様子では、遠坂先輩では無いようですけどね」

「言うわね、桜。まさか自分だとでも言いたいわけ?」

「・・・」

そうです!と言いたいのをぐっと堪えた。

例えそうであっても、この場でそう言ってしまえば、姉さんと全く変わらない印象を先輩に与えてしまう。

先輩の前では、私は淑女なの。

先輩を影から支えるけなげな後輩が、私なの。

だから私は話を戻した。

「さあ、どうでしょう。今わかっているのは、姉さんは先輩にふさわしく無いということだけです。そうですよね、セイバーさん?」

「わ、わたしは・・・」

「セイバーさんは、先輩を守るとおっしゃっていたじゃありませんか。それなら、こんな身勝手な遠坂先輩から先輩を守らなくてどうするんです。セイバーさんが先輩を守るというのであれば、先輩に相応しい人が現れるまで、先輩を守るのがあなたの使命でしょう?」





〜 〜 〜 〜 〜






私の使命。私のなすべきこと。それはシロウを守ること。

シロウの剣となり、シロウに害をなす全てからシロウを守ること。

ああそうだ、何を忘れていたのだろう。

シロウに害をなすのは、何もサーヴァントだけでは無かったのだという事に。

桜に言われて、目が醒めた感じがする。



・・・だが、この展開だと、マスターである凛からシロウを守らなくてはならないのですが。

はたしてそれで良いのだろうか。

私は腕組みをして、今までの凛のことを考え始めた。



確かに凛はシロウを困らせている。

それに、シロウに甘えすぎだし、シロウを甘やかしすぎている。

ただ優れた魔術師であることは間違いないし、その鋭い判断力などは瞠目に値する。

が、ここぞというところで信じられないミスをする彼女にシロウを任せるのは、少し躊躇われる。



「確かに凛が無条件でシロウに相応しいとは言い難い」

「ですよね、セイバーさん。ほら、セイバーさんもこう言ってるじゃありませんか」

「くっ、あーもう!。だったら、シロウに相応しいのは一体誰なのよ」



シロウに相応しい、ですか。

凛はこの通り、いささか心配だ。

桜は確かに可愛らしく、一途な女性である。

家事もそつなくこなし、私が呼ばれる以前からシロウと共に過ごし、彼の心を癒してきたのだろう。

だが、桜にはシロウを支える力が無い。

腕力ではなく、戦力という意味で。

彼は私が間違っていると言った。

それを証明するため、これからは茨の道を進む。

それは戦場へ赴くことと同義。

魔力は感じるが、それだけで彼の力となることは出来ない。

それに・・・なぜだろう、彼女の顔を見ると、妙な胸騒ぎがする。

その明るさや笑顔の裏に、何かどず黒いものがうごめいている気がするのだが・・・。

時折見せる、口元をゆがめた笑顔などは、何か恐ろしささえ感じる。

そう考えると、桜もシロウに相応しいとは言い難い。



では、大河はどうかというと・・・。

目を向けると、相変わらず泡を吹いて倒れたまま。

時折ピクピクしているから、問題は無いのでしょう。

ですが、これぐらいのことで気を失ってしまうのであれば、問題外。

いくらシロウの肉親代わりとは言え、シロウに相応しいとは言えない。



シロウに相応しいのは、彼を理解し、彼と共に歩める者。

彼の目指すものを見極め、時には彼の過ちを正すことが出来る者。

どんなに厳しい戦場でも、彼の力となり、彼に仇なす敵を蹴散らすことが出来る者。

そして時に、疲れた彼を優しく癒すことが出来る者。



ふ〜む、こう考えると、なかなか難しい人選ですね。

この条件に見合うのは・・・。

「私?」

「はっ?どうしたの、セイバー」

「いえ、シロウに相応しい人を考えていたのですが・・・」

私なら、彼を理解し、これから彼と共に歩んでゆくと誓った身。

彼に仇なす者を蹴散らしていく強さと、彼を癒す優しさを兼ね備えている。

それに、彼は私の鞘となり、私を癒してくれる。

そんな二人はベストパートナーと言っても過言ではないのでしょうか。

「どうなったのですか、セイバーさん」

いぶかしげな表情を浮かべる凛と桜に、私は満面の笑みをたたえて言った。

「どうやらシロウに相応しいのは、私のようです」





〜 〜 〜 〜 〜






「なんですって!」

全く予想外だった。

まさかセイバーが、『自分が士郎に相応しい』なんて言うとは思わなかった。

桜がそんな事を言い出したら、二度とふざけた口をきけないぐらい徹底的に身の程を思い知らせてやろうかしらと思っていたけれど、そうはならなかった。

あの子も聖杯戦争で何かを学んだようね。

うんうん、姉として妹の成長は嬉しいわ。

でも少し小憎らしくなったけどね。

そのスタイルは少しどころじゃなく憎らしいけど。

どうして血の繋がった姉妹なのに、こうも違うのかしら。

私だって、毎朝ちゃんと牛乳飲んでいるのに。



と、それは今は余計なこと。

問題はセイバーね。

やっぱり、邪気が無いって言うのが一番の問題よね。

士郎もそうだけど、そこに何の打算も無い発言は、ストレート過ぎてやりにくいったらありゃしない。

セイバーは本当に、自分が士郎に相応しいと思っているのだろう。

その曇りない表情には、神々しささえ感じてしまう。

流石に元王様といった所かしら。



でも、負けるわけにはいかない。

ええ、例え相手が誰であろうと、この遠坂凛に敗北なんて無い。

ましてや、それが自分の大切なものであるならば。

私はすーっと大きく息を吸い、自分を取り戻す。

そして、勝負を始める。



「それじゃ、誰が士郎に相応しいのか、そして士郎は誰のものなのか、決着をつけようじゃない?」



桜が、口元をにやりとゆがめて、不適な笑みを浮かべた。

「覚悟はよろしいのですか?遠坂先輩」

「桜、あなたは誰に向かってものを言っているわけ?」



火花が散る。

空気が張り詰めていくのがわかる。

そんな空気に絶えられなくなったのか、やや青い顔の士郎がぼそっと呟いた。

「誰のものって、聖杯じゃないんだから・・・」





〜 〜 〜 〜 〜






「それよ!」

俺のつぶやきに、遠坂がひらめいたとばかりに叫んだ。

「そうよ。士郎、あなたは聖杯よ。これは聖なる戦い。士郎をモノにするという、聖なる望みをかなえる戦いよ」

「お、おい、遠坂、桜の前で!」

この馬鹿が。全く、普段は冷静なくせに、ここぞというときに大ポカするんだから、こいつは。

聖杯戦争に関係の無い、魔術師でない桜の前で何を言っているんだ。

だがまだ聖杯戦争の名前を口にしただけ。

今ならまだなんとか誤魔化しようがあるが・・・。

「ふふっ、そうですね。聖杯に相応しいのは、私なんかじゃなくて先輩ですよね」

「えっ、桜?」

「隠さなくてもいいんですよ、先輩。私も魔術師ですから、全て知っています」

あ。

確かに桜は、ライダーのマスターだった慎二の妹だ。

知っていてもおかしくないはず。

慎二は知らないと言っていたが、やはり嘘だったのか。

「先輩は何も気にすることはありません。これはフェアな戦いなんですから」

桜は何を今更、といった感じで、全く動じていない。

だが桜、頼むからその口元だけの笑みは止めてくれ。

なんか背後に黒い影が見えるのは気のせいか?。



「むっ、聖なる戦い。公平な戦い。そうとわかれば、私も負けるわけには行かない」



いや、セイバー、何か違うぞ。

そりゃあ3人には公平かもしれないけど、俺の意思はどこへ?



「じゃあ、ルールを決めましょう。単なる力勝負ではつまらないでしょう?」

「ええ、先輩に相応しいのは単純な腕力ではありませんから」

「ふむ。確かに、シロウに相応しい者は、心・技・体 全てに優れていなければならない」



「え〜と、お三方?別に俺は誰のものでも・・・」


「「「キッ!」」」



怖っ!

寿命が縮んだよ。確実に3年は。

そもそもなんで俺が聖杯にされるんだ。



そういえばあの聖杯も、自分を所有する者を自分で選ぶことは出来なかった。

そういう意味では、今の自分と聖杯は確かに同じ。

すると、聖杯もこんな境遇だったのか。

・・・うん、聖杯に泥が混じるのもわかる気がする。

確かに、こんなに人の欲望というか、執念に追われたら、どこかおかしくもなるよなあ。




「じゃあ、そういうことで。抜け駆けは無しよ」

「それは私の台詞です、遠坂先輩」

「当然。騎士の誇りにかけて、存分に戦い、シロウを我が物としよう」



どうやら決着がついたらしい。

ジロッと。

獲物を狩る目を向けてきた。



3人は一歩、また一歩と俺のほうへ近づいてくる。



「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」



「士郎、アンタも覚悟しなさいよ」

「大丈夫ですよ、先輩。やさしくしてあげますから」

「シロウ、おとなしくしていた方が、御身のためです」



なんの覚悟だ、遠坂!

気が付くと、自分の後ろに固有結界ができている。

そこには、無数の剣が臨戦体制に。

本能的な危険を察知してか、これまで全力で集中しないと出来なかった魔術が、無意識に出来てしまったらしい。

まるで聖杯が身を守るために、無数の触手を振り回すようだ。



だが、3人はそんなものをものともせず、着実に俺に近づいてくる。

うわ、3人の魔力で、固有結界があっさり消し飛んだ。



となると、最後に待っているのは。



(ああ、このまま誰かに壊されないといいなあ・・・)



3人の手がゆっくりと自分に伸びてくる。



薄れ行く意識の中で、俺は少しだけ、聖杯のキモチがわかった気がした。





−−−FIN−−−




PostScript

ノリと勢いだけで書いたのがそのまま出てしまいました。
プロットをひいたときにはもうちょっとマシな気がしたのですが。
もうちょっと軽いノリのどたばたらぶこめを目指していたのですが・・・。
気がつくとジャンルすらよくわからない、変なSSになってしまいました。
もう少し手を入れようかと思ったのですが、諦めました。
次こそは・・・。


感想等がございましたら、こちらか左側メニューの「Web拍手」からお願いします。

Prev Up Next