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こどもたちといっしょ!
  第二話 「守りし者、守られし者」

教育関係者にとって、子供たちの安全確保は大きな課題です。

それは塾関係者にとっても同じ事、いえ、子供たちを夜遅くまで預かるという点では学校以上に頭の痛い問題かもしれません。特に地域密着型の塾ではそうでしょう。

子供たちを取り巻く危険にも色々とありますが、女の子の場合、やはり痴漢の危険は大きなウェイトを占めています。(まあ、ごく一部の男の子にとってもそうかもしれませんが。)

事実、私がバイトをしていた9年間でも年に2、3回は痴漢騒ぎがありました。

その大半は単に「道に変な人が居た」というレベルなのですが、公園で追いまわされ腕をつかまれるという、文字通り危機一髪という事例もありました。
幸いなことに最悪の事態には至りませんでしたが、被害にあった女の子がその後しばらく男の人に対して怯えていたのは、やはり見ていて辛いものでした。

そんなわけで、私は女の子が遅くに帰宅する際は必ず自宅に電話をさせていましたし、自主的に危険地帯のパトロールなどもしていました。
また、塾長に進言して、地元の警察に危険地帯の巡回強化を働きかけてもらったりもしました。
神経質に過ぎると思われるかもしれませんが、何かあってからでは遅いのです。

その割にアイル「脅迫」とか陵辱もののエロゲを平気でやっているあたり我ながらなんですが、ゲームはフィクションだということで、ひとつ(説得力ゼロ)。




私が大学3年の秋。
とある中学生の女の子が、帰りが遅くなってしまいました。
私は電話をしてから寄り道せずに帰るよう言い含め、教室から送り出しました。

後片付けを始めた私は、急に嫌な予感がして1階の事務室へと急ぎました。
その子が、今日は楽しみにしていた音楽番組があると言っていたのを思い出したからです。

「すみません、中1のXXは電話をしていきましたか?」

「XXですか?・・・いえ。」

あの馬鹿っ!

私は事務の方にその子の家に電話を架けるようお願いすると、白衣も脱がずに靴を履くと、急いで彼女を追いました。

音楽番組が始まるまで余り時間がありません。電話の時間も惜しんで家路を急いだのでしょう。

それでも、商店街を辿るルートで帰ってくれれば余り問題はありません。
しかし、とある近道を通れば、塾から彼女の家まで半分の時間で行けます。

とある近道、以前事件のあったあの公園を突っ切る道を通れば。




塾を出て彼女が辿るであろう道を急いだ私は、程なく彼女の後姿を捉えました。
彼女は件の公園の入口に差しかかろうとしています。

曲がるなよ、曲がるなよ、曲がるなよ、曲がるなよ、曲がるなっつってんだろうがあああぁぁぁっ!

案の定、彼女は公園を突っ切るルートを取ってしまいました。
女の子とはいえ中学生ともなると足が速い。私は距離を詰めるべく全力で駆け出しました。

彼女が公園に入ってから、私が公園の入口に辿り着くまで十数秒程度だったでしょうか。
急いで公園を見渡した私の目に、しかし彼女の姿は映りませんでした。

そんなに大きな公園じゃないけど、突っ切るには早すぎるぞ!?

まさか、まさか、まさか、まさか、って居たあああぁぁぁぁ(半泣)

遊具に遮られていただけでした。

その後も、遊具や木に遮られ見え隠れする彼女の後姿を見失わないように気をつけながら、私は彼女を追いかけました。

程なく彼女は無事公園を抜けました。
私も公園を抜け、彼女が自宅に辿り着くのを確認すると、塾へ戻ることにしました。
やれやれ、すっかり汗だくです。




戻るときは公園を突っ切ることにしました。
まあ、肥満体の大学3年生(男)を襲う痴漢もいないでしょう。

「君、何してるの。」

公園に入った私は、いきなり声をかけられました。
振り返るとお巡りさんが立っています。

え、何してるのって、私は・・・
その時、私は自分の状態に気が付きました。


  ・汗だく。

  ・髪が乱れまくっている。

  ・塾で支給されている白衣を着用したまま。

  ・全力疾走したのではあはあ言ってる。


私はあわてて弁解しました。

「わ、私は塾の生徒の女の子を追いかけてきて・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




















嫌あああああああああああああああああああああああああ(泣)

















数日後、件の女の子が、ばつが悪そうに私に話し掛けてきました。
自宅に塾から電話がかかってきたので、電話をせずに帰ったのがばれたと知ったに違いありません。親にも何か言われたのでしょう。

「せんせー、ごめんねー。」

「まったく、電話をかけてから帰れって言ってるだろ。おまけに公園まで通って・・・」

「ごめーん。でも・・・えーっ!?何で公園通ったって知ってるの?」

「あの後、すぐに追っかけたんだよ。あの公園が夜は危ないって知ってるだろ?何かあったら大変だし。心配だったからさ、やっぱり。」

「・・・うん。」

その子が最後ちょっとはにかんだような笑顔を見せてくれた、と思ったのは、うぬぼれに過ぎるでしょうか?(うぬぼれです。)

まあ、何にせよ、子供たちが無事で元気一杯に笑ってくれてさえいれば、それでいいんです。




















いいんだってば(泣)




タイトルは、アリスソフト「ママトト」から拝借。



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