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こどもたちといっしょ!
  第三話 「世界ヘビー級タイトルマッチ」

私が塾講師のアルバイトを始めたのは、高校一年のときでした。

その塾は前年まで高校受験の為に生徒として通っていた所で、小学四年生クラスの補助講師が足りなくなった際に声をかけられたのがきっかけです。

自宅からすぐ近くにあること、塾長を始めとする講師陣と顔見知りであること、高校生には魅力的なバイト代だったことから二つ返事で引き受けましたが、その時はまさか以後九年間も続けることになるとは夢にも思っていませんでした。

さて、その年の夏休みの終わり、8月31日のことです。

夏休みの終盤には、正規の夏期講習とは別に、自由学習日が設けられていました。
要するに宿題が終っていない子供達を手伝ってやるのですが、ご想像の通り大賑わいとなります。

それでも30日までには大体片付いて、31日に来る子供はあまりいません。
私の担当していた小学四年生クラスはM子という女の子が一人だけでした。

この子は母子家庭で、母親と二人きりだった反動からか人懐こく、私にも随分と懐いていました。

先回りして言っておきますが、当時の私はバイト講師の女子大生のお姉さん達が気になる極めて普通の高校生でしたので、念のため。今ではすっかり汚れてしまいましたが。

そもそも、実妹が当時小学五年生、実弟が小学三年生でしたので、M子も妹のようなものでした。




「ねー、せんせー、遊ぼうよー」

そろそろ日が傾きかけてきた午後ニ時、朝から算数ドリルと格闘していたM子はすっかり飽きてしまったようで、しきりと私に話し掛けてきます。

いつもなら息抜きに遊んであげてもよいのですが、明日が始業式ではそうも行きません。
夏休みの宿題を終え、かつ遅くならないように帰すには、心を鬼にしって立つなこら。

「ちょっとだけ。ないしょ話しようよ。」

M子は私のそばにやってくると、拗ねたように言いました。
もう限界かな。仕方ない。

「じゃあ、ちょっとだけだぞ。」

「うんっ」

甘いなぁ、私も。

「あのね(ぼそぼそ)

「はいはい(ぼそぼそ)

「○o○○ってなあに?(ぼそぼそ)



ワアアアアアアアアアッ・・・・・・
「きまったぁーっ!
今まで防戦一方だった挑戦者、一瞬の隙をついてチャンピオンの顎を右アッパーで打ち抜いたぁーっ!
がっくりと膝を付くチャンピオン!効いてる!これは効いてるぞぉーっ!」




ちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと待て!
○o○○って、それはおしべとめしべがコウノトリを受胎告知じゃなくて!
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいかん、落ち着け、俺!

「くだらないこと聞いてないで、とっととドリルやっちゃえよ。もう明日から学校なんだぞ!?先生に怒られたって知らないぞ!?」

「うーっ・・・○o○○だけ教えてよー。」

「いいのっ!そんなのはっ!(滝汗)」

「なんでーっ・・・(ちょっと小さな声で)エッチな言葉だから?」

(やめろおおおお(泣))だああっ!塾長に怒ってもらうぞ!?」

「だって、疲れちゃったよぉ。」



ウオオオオオオオオオッ・・・・・・
「立ったあああぁぁっ!!
チャンピオン、辛くも立ち上がりましたあーっ!必死になって挑戦者に手数を返します!
挑戦者も今まで打たれたダメージが残っているのか、この好機に動きが鈍い!

両者、足を止めての壮絶な打ち合いになったあーっ!」




いいか、こいつは自分が何を言ってるのかよくわかっちゃいないんだ。
ただ何となくエッチな言葉だと知っていて、ただ何となく聞いてみただけなんだ。
ここで妙な気でも起こしてみろ。こいつの心にどんな深い傷を残すことに

っておんぶしてくるなあぁっ(泣)!

膝の上に乗っかってくるなあああぁぁぁぁっ!!(号泣)



ワアアアアアアアアアッ・・・・・・
「挑戦者の強烈な左ーっ!
チャンピオン、ロープ際に追い詰められ滅多打ちだあーっ!
チャンピオン危ない!チャンピオン危ない!このまま終わってしまうのかあーっ!?」




「ドリル終ったらアイス買ってやるから。」

「ほんと?」

「ほんと、ほんと。」

「ハーゲンダッツの?」

(こ、このやろう)ハーゲーダッツの。」

「んー、わかった。」



ウオオオオオオオオオッ・・・・・・
「ク、クロスカウンターッ!!
挑戦者がとどめとばかりに放った右ストレートに合わせたチャンピオン起死回生の一撃がまともにきまったあーっ!!
ワン、ツー、スリー・・・
崩れ落ちたまま動かない挑戦者!これは立てないかあーっ!?

カン、カン、カン、カン、カン・・・
ああーっ、挑戦者、善戦及ばず!チャンピオン、辛くもタイトル防衛です!」



夕方五時。
茜色の教室で、アイスを食べる小学生と高校生。

「おいしーっ (⌒▽⌒)」

「おいしいね (Τ▽Τ)」

こうして、私は勝利を収めたのでした。 収めました。収めましたからそんな目で見ないで下さい(T_T)




さて、このM子ですが、小学校六年生のときに母親の仕事の都合で引っ越して行きました。

最後に母親と一緒に塾へ挨拶に来たのですが、少しは寂しがってくれるかと思いきや、あっけらかんとしたものでした。

「娘が長いことお世話になりました。」

「いえ、とんでもありません。」

「それじゃ、せんせー、元気でねーっ」

「お前もな。」

ま、元気でいてくれりゃ、それでいいよな。

「あ、そうだ、せんせー。」

「ん?」

「アレって何のことだかわかったよ。」

「・・・・・・アレ?」

「四年生の、夏休みの。」

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Σ( ̄□ ̄;





「アレって何?M子」










( ̄□ ̄;










「なんでもなーいっ (⌒▽⌒)」

「・・・・・・・・・・・・・・ (Τ▽Τ)」


溝口五位、生まれて初めて女性に弄ばれた、遠い昔の思い出です。















できれば忘れたいんですけど(泣)




(Τ▽Τ) : (c)「碑文」 (おい)。
(⌒▽⌒) : (c)「G−LABO」 (おいおい)。



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