「それでは来週の木曜日に、また。」
「はい、よろしくお願いします。」
夏が近づきつつあることが肌で感じられるようになり始めた六月のある日、私は某業界の大手B社のシステム部門に赴き、新規プロジェクトの打ち合わせをしていました。
B社のシステム部門は、本社ビルから離れた住宅街にある別館と呼ばれるビルに入っています。
私はこちらにお邪魔するのは初めてのことでしたが、オフィス街とは違う静かな雰囲気に溶け込んだ落ち着いた感じのビルで、打ち合わせを行った会議室の窓からは公園で遊ぶ幼子たちの姿なども見え、なかなか和みます。
どうせ仕事するならこんな所がいいなぁ。
そんなことを思いながら、私はB社側のプロジェクト責任者Eさんの後に続き、二階の会議室から廊下に出まし
ガガガガガガガガガガガガガガガガッ
そのとき、廊下の窓という窓にいきなり金属製のシャッターが下り始めました。
な、なんだ!?
会議室のほうを振り返ると、こちらの窓にも一斉にシャッターが下りてゆくではありませんか。
ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン
パッ、バッ、パッ、パッ、パッ
呆然とする私の目の前で次々と窓のシャッターが閉まり、暗くなった廊下に蛍光灯が点灯されて行きます。
「あの、Eさん、これはいったい・・・」
「ああ、防衛体制に入ったようですね。」
ぼ、防衛体制!?( ̄□ ̄;
ひょっとしてあれですか、近頃の御社の躍進でその地位が脅かされつつある業界一位のA社が破壊工作員を送り込んでくるとか、昔から御社とは険悪な関係にあるといわれている業界三位のC社がスナイパーを雇って狙撃してくるとかするんですか。
でもトラックや飛行機で突っ込まれたらどうするんですか。
もしかして巨大ロボに変形して戦ったりするんですか。
大企業のビルはどれもこれもこんな怪しげなのばっかりなんですか。
いや、待て。
防衛といっても外部の敵からとは限らないぞ。
内部に潜入した部外者を逃がさない為か!?( ̄□ ̄;
内部に潜入した部外者→ ( ̄□ ̄;
のおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?(Т▽Т)
ち、違います、Eさん!!
私は御社に対して悪意を持って近づいたわけでは!!
機密データを盗み出しA社やC社に売りつけて一儲けしようなんて考えは!!
「そろそろ株主総会が始まる時間ですからね。」
「へ?株主総会?・・・ああ、そういうことですか。」
ようやく私は合点が行きました。
今日はB社の株主総会がある日です。万一嫌がらせで投石行為などを受けたりした場合を考慮して窓にシャッターを下ろしたのでしょう。
「はあ、毎年株主総会のときはシャッターを下ろしているんですか。大変ですね。」
B社は特に黒い噂を聞くこともありませんし、過去の株主総会で大きく揉めたことがあるとも聞いていません。それでもこんな風に安全策を取らねばならないとは大企業も気苦労が多いことです。
「いや、例年はこんなことしないのですが、今年はちょっと。」
何をやった、あんたら。
いや、相手はお得意様、見ざる言わざる聞かざる、見ざる言わざる聞かざる・・・
その後、Eさんの案内のもと、窓と同じようにシャッターが下ろされた正面玄関にかわり、裏の通用門から私は外に出ました。
そこは、先ほどまで会議室の窓から見えていた公園に通じており、幼子やそのお母さん、お年寄りたちが、のんびりと日に当たっていました。
・・・きっと、なんでシャッターが下りたのだろう、なんて考えもしないんだろうな。
平和に時を過ごす公園の人々に複雑な気持ちで目をやり、窓という窓にシャッターの下ろされた別館ビルを一度だけ振り返ると、私は自社へ戻るべく歩き出しました。
B社の株主総会が何事もなく無事に終わったと聞いたのは、翌週の木曜、Eさんとの二回目の打ち合わせの席においてでした。
「それは何よりでした。」
「ええ、警察を呼ぶほどではなかったですし。」
何があった、あんたら。
いや、相手はお得意様、見ざる言わざる聞かざる、見ざる言わざる聞かざる・・・
こうしてまた一歩、溝口はサラリーマンとして完成されてゆくのでした。
完成されたくないんですけど(泣)
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