Everyday I'm looking for a rainbow.
life-prolonging EPISODE:04 2004.10.02



「朝から遠野君を引っ張っていくなんて、そんな非常識なことをするのは」

そこまで言って、顔を上げる。

視線が絡み合い、両者は同時に頷いた。

「あの泥棒猫!!!」
「あのアーパー!!!」

その言葉には、まるで呪詛が篭っているかのような重みがあった。

普段なら決して交わることのない二人に、奇妙な連帯感が生まれた。

それはある種の奇跡的な事象であり、そばに居た琥珀も『これは志貴さんにも見せてあげたかったですね〜』などと心の中でつぶやいた。

だが、その雰囲気をあっさり壊すかのように、二人の背中にな陽気な声がかけられた。

「やっほー、妹。それに、シエル〜」





life-prolonging
- EPISODE:04 -






ぽかん、と。

まるでコミカルな文字が頭上に浮かびそうな表情で、秋葉とシエルは固まってしまった。

「あれ、二人ともどうしたの?」

小首をかしげるアルクェイド。

何か面白いものがあるのか、とりあえず後ろを振り返ってみるが、そこには何も無い。

「ね〜、どうしたのよ」

再び二人の方を向いて、アルクェイドは首をかしげた。

そこに、先に復帰してきた秋葉が飛び掛るようにして駆け寄ってきた。

わっと驚くアルクェイドだが、そんなことはお構いなしにその両肩を掴むと、矢継ぎ早に詰問を始めた。

「兄さんをどこへやりました?さっさと白状しなさい!」

「えっ、えええ?」

「早く!昨日から兄さんをどこへ連れ出しているんです?あなたの家なんですか?そうなんですね!!!今なら何をやっていたのか問いませんから、早く兄さんの所へ案内しなさい!」

「いや、ちょっと・・・」

「今日は学校にも行かせなかったそうですね!全く、兄さんも兄さんです。たっぷりお仕置きしなければ。だから早いところ兄さんのところへ」

「待ちなさいよ!」

そう言って、アルクェイドは秋葉の手を振り解いた。

「志貴、いないの?」

「何をしらばっくれているのです?兄さんはあなたが連れて行ったのでしょう?」

「昨日は連れて行ってないわ」

あらぬ疑いをかけられたせいか、アルクェイドはむっとしている。

それに逆上して掴みかかろうとした秋葉を、シエルは羽交い絞めにして押さえ込んだ。

「離しなさい、シエル」

「いえ、あなたが落ち着くのが先です、秋葉さん」

「これが落ち着いていられますか!」

そんな二人に向かって、顔をしかめながらアルクェイドが続けた。

「今日は志貴と会ってないわよ。昨日も志貴を連れて行ったりしていないし」

「間違いありませんね、アルクェイド?」

「うん」

「嘘です!嘘に決まっています!」

尚も暴れる秋葉の耳元に、シエルは口を寄せた。

「秋葉さん、どうも様子がおかしいです。今のアルクェイドからは、遠野君の気配が感じられません。今まで一緒に居た訳では無さそうです」

「でも・・・」

「それに、アルクェイドは私たちに嘘をつけるほどのずる賢さは持ち合わせていません。何より、遠野君を隠しているのであれば、わざわざ私たちの前に現れるメリットがありません」

秋葉はふーっと大きく息を吐き出した。

「では、アルクェイドさんに聞きます。昨晩は兄さんとは会っていませんね?」

「夜、志貴のところへ来たよ。でも、凄い気持ち良さそうに寝ていて、なんだか起こすのがもったいなくなっちゃって。寝顔だけ見て帰ったわ」

その一言で、ようやく秋葉は落ち着きを取り戻した。

秋葉の力が抜けたのを察知して、シエルはゆっくりと秋葉を離した。





〜 〜 〜 〜 〜






「えっ、志貴いないの?」

「ええ。今朝から。恐らく昨晩の内に連れ去られたのでしょう」

落ち着きを取り戻した秋葉が、アルクェイドに非礼を詫びた後、そのまま3人は屋敷の応接間にやってきた。

そこで思い思いの場所に座り、一様に顔をしかめていた。

「マズイですね」

「はえ〜、今日の紅茶はお気にめしませんでしたか?」

相変わらず緊迫感の無い声で、琥珀がお茶菓子を運んできた。

「いえ、今日も美味しいですよ。本当に、今度お茶の淹れ方を教わりたいぐらいです。私がもっと美味しいお茶を淹れられれば、遠野君ももっと私の家に足を運んでくれると思うのですが」

その台詞に、秋葉の表情がぴくっと引きつった。

「あらあら、それでは教えられませんね〜」

屈託の無い笑顔で、さらりとかわす琥珀。

今度はシエルの頬がさりげなく引きつった。

「そんな事より、今は兄さんの事です。シエルさん、何がマズイですの?」

「そうでしたね。アルクェイド、昨晩遠野君の顔を見に来たと言いましたね?」

「うん、見たよ」

「その時、おかしな気配とかは感じませんでした?」

アルクェイドはう〜んとひとしきり悩んだが、大きくかぶりを振った。

「つまり、こういう事です」

「そう、真祖の吸血鬼にすら気配を悟らせない者に、兄さんは連れて行かれたという事なのね」

ええ、とシエルは真剣な目で頷いた。

「しかも未だに何の要求もしてきていません。もし遠野家の問題であれば、金や権力に絡んだ要求があってしかるべきはず。明らかに今回は遠野君そのものが目的だということです」

「何よそれー!」

アルクェイドが勢いよく立ち上がった。

「シエル、心当たりは無いの?」

頭を押さえて、シエルは悩みだした。

その様子を、秋葉とアルクェイドは祈るような表情を浮かべたまま、凝視していた。

「最近、この街におかしな者が潜んでいた気配はありませんでした。それに、『直死の魔眼』の事が、協会を含めたこっちの世界に漏れた様子もありません」

「それって」

「ええ。心当たりはありません」

「そんな!」

激昂するアルクェイド。それとは対照的に、秋葉の顔は血の気を失っていた。

それもそのはず。志貴がいなくなってから、もう半日以上たっているのだ。

連れ去って高飛びするには、充分すぎる時間が過ぎている。

「心当たりはありませんが、手がかりならあるはずです」

そんな二人に、シエルは厳しい視線を向けた。

「まず、遠野君の部屋を調べましょう」





〜 〜 〜 〜 〜






志貴は相変わらず、青子に膝枕をされるような格好で寝そべっていた。

ちょっとだけ変わっているのは、青子の左手が彼の頭ではなく、その目を覆っていることぐらいだろうか。

一方、青子の右手は志貴の『魔眼殺し』を慎重に掴み、目を皿のようにして隅々にまで目を通していた。

「あー、予想以上だわ。志貴、使い方荒かったでしょ」

「何がです?」

「あなたの眼鏡。魔眼殺しもそうだけど、取替えのきくフレームまで酷く傷んでるじゃない」

確かに、志貴の眼鏡である『魔眼殺し』は、普通の人間が見てわかるほど微細な傷が随所に見て取れていた。

「はは、まあいつも眼鏡してますからね」

「戦闘の時も?」

一瞬答えを躊躇った志貴だが、首を縦に振った。

そんな志貴のまぶたを、青子はポンポンと軽く叩いた。

「それでこそ志貴ね。私の言いつけ、ちゃんと守ってるようで嬉しいわ」

本当に必要な時でなければ、死を見ることはしない。

それが青子の言いつけ。

そして本当に必要な時と、戦闘の時はイコールではない。

死を見て、それをなぞることが出来れば、志貴に殺すことの出来ないモノは無い。

だが、それが必要な時とは、決して戦闘の時ではないのだ。

「とはいえ、無茶ばっかりしているみたいで、心配だけどね」

志貴に聞き取れないぐらいの声で、青子は小さく呟いた。





〜 〜 〜 〜 〜






ガチャリと、重みのあるドアを開け放った。

その部屋にはあまり物が無く、やや生活感に乏しい部屋だった。

しかし掃除は行き届いており、清潔感に溢れた部屋だった。

窓からは日の光が優しく差し込み、ベッドを明るく照らしていた。

「別段変わったところは無いようですが?」

ここは志貴の部屋。

秋葉とシエル、それにアルクェイドは、志貴が連れ去られたことの手がかりを求めてこの部屋へとやってきた。

「朝も特に乱れた様子は無かったそうです」

「争ったわけではないと。となると、眠る遠野君をそのまま連れ去ったか、もしくは遠野君が連れ去られることに同意したというわけですね」

「ええ。ですからてっきりアルクェイドさんだと思ったのですが」

腕組みをしたまま、秋葉はアルクェイドにちらっと視線を向けた。

そのアルクェイドといえば、志貴の部屋をきょろきょろと見回しながら、うろうろと歩き回っていた。

一方のシエルは慎重に、ベッドの周りや窓に目を這わせている。

秋葉も焦燥をなんとか押さえ込みながら、部屋の隅々まで丁寧に調べていった。



10分も経っただろうか。

大して広くも無い志貴の部屋は、すっかり調べ終わってしまった。

「何もありませんね」

「ええ」

秋葉とシエルはそろって溜め息をついた。

結局志貴の部屋には、血痕はおろか犯人と思しきものの髪の毛1本さえ落ちていない。

つまるところ、手がかりは何も無かった。

「アルクェイド、あなたは何か見つけました?」

「駄目、な〜んにも」

シエルの問いに投げやりに答えると、アルクェイドはポスッと志貴のベッドに身を倒した。

それを見た秋葉が、不機嫌そうに鼻をならした。

「あれ?」

志貴の枕に顔をうずめたアルクェイドが、軽く声をあげた。

「どうしました?」

アルクェイドは答えない。

何を思ったか、志貴のベッドの上をごろごろと転がり始めた。

「アルクェイドさん、遊んでいる場合ではなくて!」

その行動にいらついた秋葉が、足早にベッドに近づいた。

すると、アルクェイドはがばっと身を起こした。

「魔力だ」

「えっ?」

「かすかだけど、魔力を感じるわ」

驚いてシエルはアルクェイドに詰め寄った。

「誰の魔力かわかりますか?」

だが、アルクェイドは横に首を振った。

「それじゃ意味ないじゃない!」

思わず悲鳴に近い声をあげる秋葉。

「いえ、そうとは言い切れません。魔力をたどっていけば、少なくとも遠野君の足取りを追う事はできます」

そう言うと、シエルは真剣な目をアルクェイドに向けた。

「追えますか?」

その言葉に、アルクェイドはしっかりと頷いた。






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