Everyday I'm looking for a rainbow. |
求める者達 | EPISODE:04 2003.01.05 | |||
魔王交代。 この世界を揺るがす重い決断とは裏腹に、サテラの部屋の窓から望む空は、青く澄み渡っていた。 | ||||
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「どうしたらいいんだろうね・・・」 彼女の口から、もう何度目かもわからない、同じ言葉が紡ぎ出された。 ここはリーザス城の一角、魔王である美樹の部屋。 そこに、今だランスから声がかからない健太郎と美樹が向かい合って座っていた。 ホ・ラガの塔から戻った彼らは、美樹が魔王でなくなる方法を考えていたが、一向に良い案は浮かばなかった。 ホ・ラガから、元の世界に帰る方法があることを聞き、大分明るさをとりもどした美樹だったが、そうするための条件、魔王を辞める方法の糸口がまったくつかめず、再び落ち込み始めていた。 「帰れることがわかったんだから、きっと大丈夫だよ」 そう言って励ます健太郎だったが、帰れるのに帰れない自分達の状況に、彼もまた前にも増して焦りを覚えていた。 そのため、彼もそれ以上の事は言えず、黙ってしまった。 そうやって、再び部屋に沈黙が訪れようとしたとき、美樹の部屋のドアを叩く音がした。 「誰だろう?ウェンディさんかな?」 そう言って健太郎がドアを開けると、そこには赤と青という対照的な髪の色を持つ、2人の魔人の姿があった。 そして、健太郎が何かを言うより早く、2人の魔人は美樹の部屋に入り、静かにドアを閉めた。 「あ、あの、こんにちは」 動転していつも通りの挨拶をする美樹に対し、2人の魔人、サテラとシルキィはその場にひざまずいた。 「シルキィさん、どうしたんですか、その姿は?」 魔王城で最後に会った姿とはあまりに違うシルキィに、健太郎がそう声をかけてきた。 しかし、それには答えず、シルキィは顔をあげ、美樹の瞳を見上げてこう言った。 「時間がありません。率直にお伺いします。魔王として覚醒していただけませんか?」 その横で、サテラはじっと下を向いて、手を握り締めていた。 なぜなら、もしここで美樹が魔王として覚醒することを選べば、ランスを魔王にするという彼女の夢は潰えてしまうからだ。 シルキィは、確かにサテラ達の案に頷いた。 しかし、一つの条件を前提として。 それが、「美樹が再び魔王として覚醒することを拒んだら」である。 もし今ここで、美樹が魔王として覚醒すれば、すべての問題が片付いてしまう。 強制力を行使し、ケイブリスを従わせ、ホーネットを救い出すこと。 それはすべて美樹が魔王として覚醒することで、実現できるからであり、それこそが前魔王ガイの、そしてホーネットの望みだからだ。 美樹の魔王覚醒と、ランスを魔王にすること。 どちらの方法でもホーネットを救う事が出来る。 ただ、サテラの中では、もはや第一の目的が、ホーネットを救うことでは無くなっていた。 そんな魔人達の葛藤とは裏腹に、美樹はただ困った顔をするだけだった。 そんな美樹に、シルキィは真っ直ぐな視線を送りつづける。 やがてその視線に耐え切れなくなったのか、美樹は泣きそうな声でつぶやいた。 「ごめんなさい・・・」 その瞬間、サテラは笑みを押さえきれなかった。 そんな彼女を複雑な想いで見ながら、シルキィは話を続けた。 「では美樹様。魔王の座をお譲りください」 「えっ?」 「まさかっ!」 驚く美樹とは対照的に、健太郎はさっと美樹の側に寄った。 魔王を譲る、それを魔王を倒すことに結び付けてしまったからである。 無論、魔人が魔王を倒せるはずも無く、そんな心配は杞憂に終わるだけだった。 「譲る、ですか?」 「はい。今、私達はどうしても魔王となる方が必要なのです。ですから、美樹様が魔王の血を、他の方に譲っていただきたいのです」 「でも・・・でも、誰にですか?」 「ランスにです!」 それまで黙っていたサテラが、待っていたように勢い込んで答えた。 「王様に・・・」 そんなサテラとは対照的に、美樹の表情は曇ったままだった。 彼女にとって、魔王というものは、不要なもの、そして不快なものでしかなかった。 そんな疎ましいものを、自分をかばってくれた恩のあるランスに押し付けるのは、やはり気持ちの良いものではなかった。 そんな美樹の様子に苛立ったサテラが、我慢し切れずに叫んだ。 「美樹様!美樹様は、こんなにやつれたシルキィを見て、なんとも思わないの!。それに、こうしている間も、ホーネットがひどいめに合わされてるかもしれないのよ。それであなたは」 「黙りなさい、サテラ」 憤るサテラを押さえて、静かな口調でシルキィは続けた。 「最初にも言いましたが、私達には時間がありません。美樹様、ご決断を」 わずかな間。そして、オロオロしていた美樹が、再び口を開いた。 「うん、わかった。王様に魔王を譲ります」 「美樹ちゃん!」 驚く健太郎に、美樹はこう続けた。 「これ以上、私達をかばってくれたホーネットさん達に、迷惑はかけられないよ。それに、王様は強しやさしいから、きっと魔王になっても大丈夫だよ」 「そんな・・・」 「それに・・・それに、私、もう元の世界に帰りたいよ。魔王じゃなければ、私は元の世界に帰れるんだよ。ねっ、健太郎君。一緒に元の世界に帰ろう」 瞳一杯に涙をためながら、自分にすがり付いてくる美樹に、健太郎は、何も言うことが出来なかった・・・。 豪華な部屋。 その部屋の造りは、床から天井に至るまで細部にわたって装飾が施されており、まさしく王の居場所というに相応しいものであった。 しかし、その部屋の調度品は決して絢爛なものではなく、むしろ雑多というべきであり、一見ちぐはぐな、それでいて妙にはまっているような、不可思議な雰囲気をかもしだしていた。 そしてその部屋の主は、重厚な作りのソファに横たわり、読書に没頭していた。 「ククッ、今度はこういう女もハーレムに入れるかなあ」 そういって口の端をゆがめて笑うのは、リーザスの王であるランスその人である。 元々政務にたずさわらないランスは、時として昼間から、こうしたけだるい時間を過ごしていた。 本来なら気力が溢れ、じっとしていられない性格だったランスだったが、ある時から、こうしたけだるい時間を過ごすようになった。 実際には、けだるい時間を過ごしているのではなく、ただ時が流れていくところに、身を置いているだけのようだった。 しかしこの日、ランスは緩慢な時の流れから引っ張りだされることとなった。 コンコン。ガチャ。 「ランス、いるんでしょ!」 返事もきかずに扉を開け放ったのは、情熱の赤をまとった魔人、サテラである。 大概の者はランスの機嫌を気にしてこういった所に直接訪れることは無いのだが、彼女は気にもしなかった。 もっとも、この時の彼女には、そんなことを気にする余裕も無かったのだが。 「ん〜?、おぉ、サテラか。どうした?」 読みかけの本から顔を上げたランスの目に、なにか思いつめたような表情のサテラが映った。 「ねえ、ランス。その・・・」 何かを言いかけてもじもじするサテラに、ランスはニヤリとして言った。 「なんだ、我慢できなくなったのか?。それなら今すぐにでも」 「そうじゃない!ランス、大事な話があるから、後でサテラの部屋に来て欲しいの」 「なんだ、改まって。欲求不満なら今すぐにでも大丈夫だぞ。俺様のハイパー兵器はいつでも120%だからな」 「んもう!」 がははと大笑いするランスの態度に、赤くなってむくれるサテラ。 だが、ランスは、やれやれといった顔を見せた。 「わかったわかった。んじゃ、後でな。たっぷり可愛がってやるから、準備しておくんだぞ」 それを聞いてさらに真っ赤になるサテラだが何度も「絶対だぞ」と念を押して、部屋を出て行った。 「・・・何だったんだ、結局。まあ、後でたっぷりかわいがってやるとするか」 そう言うとランスはふたたび頬をゆるめて、読書に没頭し始めた。 その夜、ランスは約束どおりサテラの部屋を訪れた。 「おぅ、サテラ、来てやったぞって、なんだ!?」 「遅いよ!」 そう言ってランスを迎え入れたサテラだが、ランスはサテラのことなど見ていなかった。 ランスの目に映ったのは、普段その部屋にいることのない人物ばかりであった。。 「なんだ、サテラ。珍しく俺様を呼びつけるから何事かと思ったが、まさか乱交パー・・・」 「もう、馬鹿なこと言ってないで、早く入って!」 サテラはそう言いながらランスの背中を押すと、扉から外の様子を伺い、人の気配が無いことを確かめると、そっと扉を閉めた。 「こいつは一体・・・」 一方ランスは、その部屋に居るメンバーに驚きを隠せなかった。 部屋に入ったとき、彼の目に映ったのは、サイゼル・ワーグ・メガラスだけだったのだが、よく見ると部屋の隅には美樹と健太郎、その横のベッドには強大な気を放つ、やつれた少女がいることに気が付いた。 思わず固まってしまったランスだが、サテラは彼にその状況を説明することなく、早口で語り始めた。 「ねえランス、お願いがあるの。驚かないで聞いて。実は・・・」 | ||||
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