Everyday I'm looking for a rainbow.
求める者達 EPISODE:05 2003.01.05



部屋に入ったとき、彼の目に映ったのは、サイゼル・ワーグ・メガラスだけだったのだが、よく見ると部屋の隅には美樹と健太郎、その横のベッドには強大な気を放つ、やつれた少女がいることに気が付いた。

思わず固まってしまったランスだが、サテラは彼にその状況を説明することなく、早口で語り始めた。

「ねえランス、お願いがあるの。驚かないで聞いて。実は・・・」





求める者達
- EPISODE:05 -






「俺様が魔王に、ねえ・・・」

サテラの願い、それは滑稽にも思えるほどだった。

なぜなら、人と魔、それは決して相容れるものではなかったからである。

もちろん今ここに、人であるランスと魔人であるサテラが席を共にしているが、それはあくまで個人的な関係の延長であり、決して人と魔物の壁が消えたわけではない。

それに、サテラの願いは魔人になるというのではなく、その王になることなのである。

いつもなら勢いで決断してしまうランスも、この時ばかりは即答できなかった。

そんなランスを、そこに居る者は複雑な想いで見つめていた。

純粋に、ランスが魔王になるものを期待している者。

なにか申し訳ないような感じで、あまり目を合わせないようにする者。

ただその動向を気にしている者。

そういった複雑な思惑のからみあった視線にさらされたランスは、軽く息をつくと、側にあった椅子にどっかり腰掛けた。

「魔王・・・か・・・」

「お願い、ランス!」

そんなランスにいたたまれなくなったサテラが叫んだ。

「おい、サテラ」

「何?」

「俺様が魔王になって、何かいいことあるのか?」

「魔王になれば、脆弱な人間みたいに死の恐怖におびえることも無い。それで、千年は生きられる。それに・・・その・・ずっとサテラと一緒にいられるよ」

最後の台詞はちょっと頬を赤らめて言うサテラ。その台詞を聞くと、それまでの表情を一変させて、ランスはニヤリと笑った。

「そいつは面白い」

それを聞いて、サテラはパッと表情を明るくさせた。

「ねえ、ワーグとも一緒にいられるんだよ」

それまでサテラの話に退屈していたワーグだが、ランスが笑ったのを見て、彼の側に寄ってきた。

「お兄ちゃん、ワーグとずっと遊べるね」

「ああ、そうだな」

「わ〜い!」

そう言うと、ワーグはラッシーに乗ったまま、ランスの周りをぐるぐると回り始めた。

それを見た美樹がくすくすと笑い、他の魔人たちも、一様にリラックスした表情を浮かべた。

ただ、いい雰囲気を邪魔されたサテラだけが、少しむくれていたのだが。

「それじゃあランス、これからのことなんだけど」

気を取り直したサテラが話し出そうとしたその時、バタンと大きな音がしたかと思うと、窓から何者かが姿をあらわした。

「無用心すぎるわよ、サテラ」

そう言って部屋に入ってきたのは、そこに居なかった魔人の一人、ハウゼルである。そしてもう一人は、リーザスの忍者、見当かなみであった。

いつも王に付く忍者としてランスの側にいたかなみは、当然ながらこの時も屋根裏で、ランスたちの様子を窺っていたのであった。

完全に気配を消し、魔人にさえ見つからずにいた彼女だったが、ランスが魔王になることに同意した時、さすがに動揺が隠せず、そこをハウゼルに気づかれたというわけである。

ハウゼルに捕らえられたかなみは、逆手を取られて身動きできない状態であったが、臆することなくランスをにらみつけると、口を開いた。

「ねえ、ランス、馬鹿なことはやめて。あなたは人間で、リーザスの王なのよ」

「うるさい、だまれ!」

そんなかなみに負けじとサテラが詰め寄ったが、かなみが口を閉じることは無かった。

「魔人なんかにたぶらかされちゃ駄目。ランス、あなたは魔王がどんなものかわかってるの?。魔王になる必要がどこにあるの?」

「だまれと言ってるでしょ!」

「それに、そんなことしてシィルちゃんが喜ぶと思ってるの!」

「貴様に何がわかる!!!」

それまで黙っていたランスが、その言葉に弾かれたようにかなみに詰め寄ると、胸倉をつかみ上げた。

「なぜ貴様が今ここにいないシィルのことがわかる。言っておくが、俺様の行動は俺様が決める。それはシィルがいても同じことだ。それに・・・」

そこまで言って、ふっと我に返ると、かなみから手を離してまたどっかりと椅子に腰をおろし、大きく息をついた。

「まあ、それはどうでもいいことだ。問題はお前をどうするかだ」

「さっさと殺しちゃおうよ」

サテラはむっとした表情のままそう言ったが、ランスは苦笑するだけだった。

「まあ待て。俺様は可愛い子は殺さない主義だからな。それにかなみはこれでも俺様の女の一人だからな」

それを聞くと、サテラの表情がさらに不機嫌になった。

「とりあえず、邪魔だから眠ってもらうか。おい、ワーグ」

「なあに、お兄ちゃん?」

「かなみを眠らせといてくれ。ただし、魂は取るんじゃないぞ」

「うん、わかった」

そう言うと、ワーグは精神を集中させて身構えているかなみをあっさり眠らせてしまった。

「まったくお邪魔虫なんだから」

まだむくれたままのサテラだったが、気を取り直してランスに向き直った。

「じゃあランス、早速魔王に」

「待ってください」

そう切り出したのは、それまで黙っていた健太郎だった。

「先に解決しておかなければいけない問題があります。ランスさんが魔王になる前に、先にそれを決めておきたいのですが」

「なに、問題って?」

「それは・・・」

そこまで言うと、健太郎は黙ってしまった。言うべきかどうか迷っている、そんな感じで下を向いた彼に代わって、美樹が口を開いた。

「日光さんのことです。日光さんは聖剣です。王様が魔王になったら、日光さんは健太郎君に、王様と戦えって言うかもしれません」

「なんだ、日光さんはこのことを知らないのか」

ランスがそう言うと、美樹も黙ってしまった。

確かに、今まで美樹と一緒にいたせいで忘れていたが、聖剣とは魔人、そして魔王を倒すために存在するのであり、今のように魔王と一緒にいるほうがおかしいのである。

そんな日光が、人間にとって新たな脅威となるであろう魔王の誕生を、快く許してくれるはずも無い。

結局、美樹も健太郎も、今回のことを日光に言えずにいた。

「確かに聖剣はやっかいね」

「ねえサテラ、もう少し慎重に事を運んだ方がいいんじゃないかしら」

サイゼルとハウゼルがそう言うと、「今すぐランスを魔王に」と意気込んでいたサテラも、うなざかざるをえなかった。

「それじゃあ、改めてランスを魔王にするためにどうしたら良いか考えましょう」

「まずは聖剣日光ね」

「私たち魔人が、聖剣を倒すことはできません。リーザス王でも、封印するような事は難しいでしょう。それに、そんな事をしている時間的余裕も無ければ、事を大きくすることも出来ません」

「あ〜、もうじれったいなあ。なんか良い方法無いの!」

「ね、姉さん。ちょっと待ってね。結論から言うと、聖剣を無くすことが出来ないのなら・・・」

「舞台から降りてもらうってことだな」

ハウゼルに皆まで言わせず、ランスはそう言うとにやりと笑った。

「えっ、ランス、何それ?」

話についていけなかったサテラが首をかしげる。

「要はその場にいなけりゃいいってことだ。なあ、ハウゼル」

「そういうことです。私たち全員がリーザス城を離れるのは不自然ですから、聖剣日光をこのリーザス城から遠ざけてしまいます」

「なるほど。さ〜すがハウゼル。あったまイイ!」

そう言うと、サイゼルはにこにこしながらハウゼルの頭をなではじめた。

「ちょ、ちょっと姉さん・・・」

ハウゼルは、困ったような、それでいて嬉しいような顔をして、少し頬を染めていた。

「も〜、アンタたち、何やってんのよ!」

たまりかねたサテラが叫んだが、サイゼルは気にする風も無く言い返した。

「いいじゃない。なんだかんだいって抜けてるサテラのフォローを、ハウゼルがしてくれたんだから。ねえ、ハウゼル?」

「なに言ってんのよ。まだ問題が解決したわけじゃないでしょ!」

「なんで?。今ハウゼルが解決してくれたじゃん」

「まだどうやって聖剣日光を遠ざけるか決めて無いじゃないの」

「あ、そうか」

そう言うと、サイゼルはぺろっと舌を出した。

「その事で、僕に考えがあるのですが」

話が一段落したのを見計らって、それまで黙っていた健太郎が切り出した。

「日光さんをリーザス城から遠ざけるには・・・」





〜 〜 〜 〜 〜






翌日。

「いったい何かしら?」

そうつぶやきながらリーザス城の回廊を歩いているのは、カフェ・アートフル。彼女はランスによってその姿を昔のままに戻してもらった後、カルフェナイトを率いて魔物との戦いに参加していた。

残す魔人がケイブリスただ一人となり、幾分戦いにも余裕が出来たせいか、カフェの部隊はリーザスに戻り補給中であった。

カフェが謁見の間に入ると、そこにはランスとマリスだけでなく、健太郎、そして日光が待っていた。

「あ〜、カフェさん。よく来たな」

「なんです、ランスさん。日光さんも健太郎君もいるっていうことは、魔人がらみで何かあったんですか?」

「いやいや、そういうわけじゃない。その、なんだ。カフェさん、疲れてないか?」

「えっ、ランスさん、どうしちゃったんです?」

突然のランスの思いやり、カフェはかなり驚いた。

ランスが女の子に無理をさせることは少ないが、こういうストレートな物言いをすることはめったに無いからだ。

「魔人もあらかたこの俺様がやっつけちまったからな。まあ、今前線はリックやメナドの部隊だけで十分だから、カフェさんも少し休んでもらおうかなと」

「それはありがたいんですけど。どうしちゃったんです、急に」

「僕が言ったんですよ、カフェさん」

話に加わってきたのは、日光と共に脇に控えていた健太郎だった。

「王様が最後の魔人との戦いに備えて休んでおけって言ってくれたんで、それなら日光さんとカフェさんもと思って」

「そうなんですか」

「そういうわけだ、カフェさん。ここはひとつ、日光さんと温泉にでも行ってみたらどうだ。あのラジールの近くにある・・・」

「にぽぽ温泉ですか」

詰まったランスに、マリスが助け舟をだした。

「そうだ、そこだ。少しのんびりしてくるといい」

「あ、いいですねそれ。でも、健太郎君は?」

「僕は美樹ちゃんとのんびりしてようかなと」

「へ〜、二人っきりになりたいんだ」

「そ、そういうわけじゃ・・・」

思わず赤くなって下を向いてしまう健太郎。

そんな彼の様子を見て少し笑うと、カフェはあまり乗り気でない様子の日光に話し掛けた。

「日光さんはどう?せっかくだから行ってみない?」

「しかし、美樹様や健太郎様にもしものことがあれば・・・」

「それは大丈夫だろ、日光さん。もう魔人はケイブリスの野郎だけだし、ここには無敵の俺様がいるからな」

「ですが・・・」

「もう、日光さん。日光さんも少しぐらいは休まなくちゃ駄目ですよ。それに、健太郎君たちの邪魔しちゃ駄目です」

そう言ってカフェが笑うと、日光もやれやれといった感じでうなずき、視線をランスの脇のマリスに向けた。

「マリスさん、本当によろしいのですか?」

「ええ。ラジールであればそれほど遠くありませんし、何か起きてもすぐに連絡できますので。それに、困るのは今後の魔人との戦いで、貴方が力を発揮できないことですから」

「わかりました。それではランスさん、好意に甘えさせて頂きます」

「ああ、そうしろ。温泉でお肌を磨いて戻ってきたら、俺様と一晩・・・」

「さあ、カフェさん、行きましょうか」

「うん!」

日光とカフェは、最後までランスの言葉に耳を貸さず、謁見の間を後にした。

その後を追って、健太郎も出て行く。

後に残されたのは、ぶつぶつと文句を言うランスと、それを聞き流すマリスだけだった。




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