Everyday I'm looking for a rainbow. |
求める者達 | EPISODE:06 2003.01.05 | |||
日光とカフェは、最後までランスの言葉に耳を貸さず、謁見の間を後にした。 その後を追って、健太郎も出て行く。 後に残されたのは、ぶつぶつと文句を言うランスと、それを聞き流すマリスだけだった。 | ||||
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「それじゃあ、美樹様、健太郎様、くれぐれも危険なことはなさらないように。何かあったらすぐお知らせください」 「大丈夫ですって、日光さん」 「ゆっくりして来てくださいね」 リーザス城の城門まで見送りに来た美樹と健太郎に、日光は相変わらず心配そうな顔を向けた。 そんな日光に、美樹と健太郎は笑顔を返す。その様子をにこにこと見守っていたカフェが、日光を促した。 「それじゃあ日光さん、行きましょうか」 「はい」 そう言うと、二人はその場をあとに。した 「いってらっしゃい」 そう言って、頭を下げる健太郎。そして、大きく手を振る美樹。 この時日光はもう一度振り返るべきであったかもしれない。 そうしたら気がついたのだ。いつまでも頭を上げようとしない健太郎と、いつのまにか瞳に涙を浮かべている美樹に。 そして、これが、日光と美樹、そして健太郎の交わした最後の会話となった。 「は〜、うまくいったわね。さすがハウゼル」 「ね、姉さん」 「ほらそこ、じゃれるのは後回し」 日光がリーザス城を去った日の夜、再び昨夜と同じ顔ぶれが、サテラの部屋に集まった。 唯一の懸念点だった聖剣日光の問題がクリアされ、サイゼルとハウゼルは幾分リラックスしていた。 しかし、サテラはこれからが本番とばかりに意気込んでいる。 一方、美樹と健太郎は押し黙ったままだった。 ランスはそんな部屋の様子を、ぼんやりとした目で見つめていた。 (・・・もう後戻りはできない、か。) 「・・っ、ランスっ!」 「ん、サテラ、どうした?」 「どうしたじゃ無い!。これから魔王継承の儀式を始めるよ」 「で、具体的にはどうするんだ?」 「それは・・・」 そこまで言って言いよどんだサテラの後を、ハウゼルが引き継いだ。 「魔王の血を体内に取り込んで頂きます」 「血を飲めってことか?」 「そうです。魔王が魔王であるのは、体内に特別な血を宿しているからです。私たちもその血を分け与えられることで、魔人でいられるのです。つまり、魔王を継承するということは、魔王の血を継承するということなのです」 「ふ〜ん、なるほどなあ」 「それでは美樹様、どうぞこちらへ。それから姉さん」 「何、ハウゼル」 「この部屋に結界を張って、魔王の気が外に漏れないようにして。普段は意志で押さえられている魔王の気も、継承の時は押さえられないでしょうから。ワーグとメガラス、それに出来ればシルキィもお願いします」 「は〜い」 「・・・承知」 「わかったわ」 「ちょっと待って。サテラもいるじゃない!。シルキィに無理・・・」 「いいのよサテラ。魔王様が覚醒するまでの辛抱だから」 そう答えたシルキィの目には、再び光が戻っていた。 それを見て取ったサテラは、黙るしかなかった。 「ごめんなさい、シルキィ。魔王の気は強大なもの。恐らく複数の魔血魂を宿す今のシルキィの強大な力がなければ、すべてを押さえ込むのは難しいの。それに、サテラには私のサポートをして欲しいから」 「ふっ、そういう意味では私の行為も無駄ではなかったという事か」 やや自嘲気味に笑うシルキィ。 それは、まだホーネットの指示を違え、美樹以外の者を魔王にすることに割り切れていないことの現れ。 そんなシルキィを、サテラは複雑な想いで見つめていた。 一方、ランスは美樹、健太郎と相対していた。 「かくまっていただいたお礼もできずに、こんなことを頼んでしまって、本当に申し訳ありません」 そう言って深々と頭を下げる健太郎。 「王様、後のことをよろしくお願いします」 そう言って健太郎に倣って頭を下げる美樹。 「がははは、気にするな。もともとお前たちは好きでここに来たわけじゃないんだからな。元いた世界に帰るのが正しいだろ」 そう言って笑うと、ランスはサイゼルに声をかけた。 「おい、それでどうするんだ?」 「はい、まずは美樹様、美樹様は〔魔王の継承を行う〕事を強く意識してください。そしてリーザス王は美樹様から出てくる血を吸ってください」 「それだけでいいのか?」 「はい。魔王の意思で血の継承を行い、相手がそれを受け入れるのであれば、それだけで済みます」 「ふ〜ん、もっと大層なものかと思っていたんだけどなあ」 ランスはややつまらなそうにうなずくと、美樹に近づいた。 それを機に、ハウゼル、ワーグ、メガラス、そしてシルキィが、一斉にに結界を張り始めた。 「では美樹様、〔魔王の継承を行う〕事を強く意識してください」 「健太郎君・・・」 「大丈夫、美樹ちゃん。ずっと僕がそばに付いているから」 そう言って健太郎が美樹の手を握ると、美樹は強くうなずいて目を閉じた。 ランスは美樹の腕にカオスを当てると、軽く引いてみる。 しかし、魔王である美樹の体には、傷ひとつつかない。 (ほう、これは面白い) ランスはニヤリと笑うと、力強くカオスを引いた。 その瞬間、美樹の腕からは血が噴出した。 「あぅ!」 「美樹ちゃん!」 流石に堪えたのか、美樹がうずくまる。 だが、血が噴出したのは一瞬で、もう傷はふさがりかけていた。 「ランス、早く!」 「お、おう」 あっけにとられていたランスだったが、サテラの一言で我に返ると、その血に口をつけ始めた。 そんな状態が10分も続いただろうか。突然、ガクンと美樹の体が崩れ落ちた。 「美樹ちゃん!」 「大丈夫、意識を失ってるだけよ」 慌てて抱き起こす健太郎に、サイゼルがやさしく諭す。 その直後、すさまじい「気」が部屋を満たした。 ある一点から、すべてのものを押し倒すような、そんな気がその部屋のすべての者を圧倒した。 「・・・っ!」 声にならない悲鳴を上げてあとずさるサテラ。 他の魔人たちも、一言も発しない。 いや、正確には発せられず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。 「クククッ、すげえな、こいつは」 その圧倒的な気を放つ存在は、笑っていた。 ただ、笑っていた。 そこには邪気の無い、まるで新しいおもちゃを与えられたような、そんな表情で笑うランスがいた。 「成功ダ」 メガラスのその一言でハッとしたサテラは、気を取り直すとランスに向かって叫んだ。 「ランス!、気を押さえて。これじゃ、結界が持たない!」 「ん、どうすりゃいんだ?」 「気を押さえればいいの。早く!」 答えになっていない答えを返すサテラだったが、ランスがうなずくと、徐々に部屋の中に平穏が戻ってきた。 「ハァー」 サテラの大きなため息で、部屋にいる面々が我に返る。 ハウゼルは倒れている美樹と、それを抱き起こす健太郎に近づいて、そっと美樹の腕を取った。 「・・・もう大丈夫です。人間に戻っています。後は部屋で休ませれば大丈夫でしょう」 「本当ですか!」 「ええ。ご苦労様でした。今は早く部屋に戻って休んでください。後のことはまた明日の朝に」 「わかりました」 そう言うと、健太郎はそっと美樹を抱きかかえ、その部屋を出ていった。 「おう、なんつ〜か、力がみなぎる感じだな」 いつもと少しも変わらない感じで話すランスだが、その体からはまぎれもない、魔王の波動が放たれていた。 それに引き寄せられるように、サテラがランスに近づいて来た、 「魔王様、このサテラは今後魔王様に忠誠を尽くし、すべてをなげうってお仕えすることを誓います」 そう言って深々と頭を下げるサテラ。しかしランスはそんな彼女を見て一言。 「サテラ、なんか悪いもん食ったか?」 「んもう、ランス、そんなんじゃないってば!」 むくれるサテラを見て笑うと、ランスは後ろでかしこまっている魔人たちを見て言った。 「がはは、そうそう、サテラはそうじゃなくちゃつまらん。おい、お前えらも、そんなかしこまらんでいいぞ。今まで通りで」 「ホント?。んじゃ、そうするね」 「ちょ、ちょっと姉さん」 こちらはサイゼルとハウゼル。 「わ〜い、おにいちゃん」「わふっ!」 「ちょ、ちょっとワーグ。遊ぶのは後で!」 こちらはワーグとサテラ。 そんな様子を、シルキィは荒い息をつきながら見ていた。 (・・・ごめんあさい、ホーネット様。でも、この魔王様なら大丈夫です。) そんな事を考えながら、シルキィは力無くベッドに倒れこんだ。 そのドサッっと言う音に気がついたサテラが、慌ててベッドに近寄ると、シルキィに声をかけた。 「シルキィ!大丈夫?」 「・・・ああ、ちょっと疲れただけだ」 「本当?」 「サテラ」 そこにハウゼルが割って入った。 「魔王継承は無事済みました。後はシルキィから魔血魂を取り出してもらいましょう」 「うん。シルキィ、もうすぐ楽になるからね」 そう気遣うサテラから視線をはずし、顔を上げてハウゼルは言った。 「それではこうしましょう。結界を張った者はもう休んでください。私とサテラで引き続き結界を張り、魔王の気を押さえます。魔王様は気配を押さえていますが、強大ですので、完全ではありません。しかしこの程度なら、魔人1人で押さえられますから。その間に、シルキィから魔血魂を取り出してもらいます」 「え〜、ハウゼルも休もうよ。ハウゼルはずーっと頭使って疲れてるでしょ。誰かと違って」 「ね、姉さん」 その発言に慌てて姉を押さえるハウゼルだが、当のサイゼルは気にする様子も無い。 一方のサテラも思い当たるところがあるせいか、反論できずにむ〜っと唸っているばかりだ。 「じゃ、こうしよう。結界を張った魔人とハウゼルは休め。で、サテラ、後はまかせたぞ。そして、明日の朝、またここに集まれ」 魔王となったランスの言葉に、魔人たちはいっせいにうなずいた。もっともサテラだけは、 (ん〜もう、甘いんだから、ランスったら。) と、ちょっとむくれていた。 | ||||
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