Everyday I'm looking for a rainbow. |
求める者達 | EPISODE:07 2003.01.05 | |||
「じゃ、こうしよう。結界を張った魔人とハウゼルは休め。で、サテラ、後はまかせたぞ。そして、明日の朝、またここに集まれ」 魔王となったランスの言葉に、魔人たちはいっせいにうなずいた。もっともサテラだけは、 (ん〜もう、甘いんだから、ランスったら。) と、ちょっとむくれていた。 | ||||
| ||||
静かになったサテラの部屋。 つい一刻前までの喧騒は無く、そこには魔王となったランスと、荒い息をつくシルキィだけが残されている。 結界を張った魔人たちとハウゼルは部屋に戻って休み、サテラは結界を張ると同時に見張りを兼ねて部屋の外にいた。 「魔王様、よろしくお願いします」 ベッドから起き上がったシルキィは、そう言って頭をさげた。 ランスはそんなシルキィを、すみからすみまで観察していた。 「私の体内には、複数の魔血魂があります。1つは私が前魔王であるガイ様に頂いたものですから、残りの魔血魂を取り出してください」 (ふ〜ん、やつれてはいるが、なかなか可愛いな。こうして月明かりで見ると、結構そそるものがある。) 「魔血魂は、魔王様が手をかざすだけで私の体内より取り出せるでしょう」 (ちょっと貧相な体つきだが、きれいな肌がグッドなので良し!) 「あ、あの、魔王様?」 どうやらランスが何も聞いていないことに気がついたシルキィが声をかける。 「あ、ああ。大丈夫。俺様にかかれば大丈夫だ」 「は、はあ、よろしくお願いします」 それを聞くとランスは、シルキィをやさしくベッドに横たえ、ゆっくりと服を脱がしていく。 「あ、魔王様・・・」 とまどうシルキィが声をあげるが、ランスは気にすることなく服を脱がしていき、あらわになった肌をやさしく愛撫していく。 そうしていくと、荒い息をついていたシルキィの様子が、徐々に落ち着いていく。 そして1つ、また1つと、その体からゆっくり魔血魂が浮かび上がってきた。 しかしランスは浮かび上がってきた魔血魂に目もくれず、やさしく愛撫を続けていく。 そのうち、おさまっていたシルキィの息がふたたび荒いものに変わり、だんだんと喘ぎ声に変わっていった。 やがて、2つの影が1つになり、夜がふけていった・・・。 鳥のさえずりが聞こえる。 静かで、穏やかな朝。一日の始まりを、喜んで迎えられる、そんな感じの朝だった。 (こういう朝は久しぶりだな。) シルキィはゆっくりと目を開けた。 体が軽い。 今までは許容範囲を超えた力のせいか、まるで他人の体を操っているような感じだったが、余計な魔血魂が無くなり、久々に心と体が一体となった感じがした。 (つっ!) ゆっくりと体を起こそうとした瞬間、鈍い痛みが走る。 それは下腹部から。それで昨晩のことを思い出してしまった彼女は、思わず頬を染めた。 自分がそういうことをされるとは思いもよらなかったが、決して不快ではなかった。 そっと下腹部に手を這わせると、少しずつ痛みも和らいできた。 しかし、ほとんど体に力は入らなかった。 やれやれといった感じで首を横に向けると、そこには自分の新たな主となった魔王の姿があった。 魔王。 すべての生物の上に君臨するもの。 その力は限りなく、まさに恐怖の代名詞といっても良い存在である。 しかし彼女の瞳に映ったのは、大きないびきをかきながら熟睡している、一人の男の姿であった。 (とても魔王には見えないけれど) 彼女の視線の先には、新たに魔王となった男がいた。 そこには、前の魔王であるガイが備えていた尊大さは微塵も感じられない。 むしろその寝顔からは、いたずら好きの子供のような無邪気ささえ感じられた。 「ふふふ」 そんなあどけない寝顔を覗き込んで笑みを浮かべたシルキィは、軽く寝返りをうつと、ランスの腕に頭をのせ、再び穏やかな眠りに落ちていった。 「んもう、なんでサテラがこんな役回りなんだ!」 そう言って頬を膨らませながら朝を迎えたのは、真っ赤な髪を一つにまとめ、たなびかせる魔人、サテラである。 結局彼女は一番中、ランスの部屋に結界を張り、目を光らせていた。 その甲斐あってか、何事も無く朝を迎えられたのだが、皆が寝ているときに一人だけ神経を尖らせ、その上じっとしていなければならなかったのは、彼女にとってはかなりの苦痛であった。 「ランス、シルキィ、そろそろ・・・」 そう言いながらサテラがランスの部屋に入る。 と、そこで彼女が目にしたものは、彼女の予想だに出来ない光景であった。 「あああああああっ!、何やってるのよ!!!」 そこには、裸のまま大の字になり、大きないびきをかいて眠るランスと、こちらも裸で、ランスに腕枕をされながら幸せそうに眠るシルキィの姿があった。 怒りのために真っ赤な髪を逆立てたサテラは、二人をにらみ付けながらベッドの前に走りよって来る。 一方、その声に飛び起きたシルキィは、自分が何も身につけていないことに気づくと、慌ててシーツを引っ張りあげ、自分の体を隠そうと慌てふためいていた。。 「まったく、サテラが一晩中寝ずにがんばっていた・・・」 怒声を続けようとしたサテラだったが、シルキィがシーツを引っ張った拍子にあらわになったランスの元気なハイパー兵器がを直視してしまい、そこで固まってしまった。 「う〜ん、朝からなんだんだ?」 そんな騒ぎに、ようやくランスも目を覚まし、むっくりと体を起こした。 「ちょっとランス、何やってたのよ!」 「あ〜、うるさいぞ、サテラ。まったく、どうしたっていうんだ?」 「どうしたじゃないでしょ。サテラがランスのために頑張っていたのに!」 「朝から元気だな。それだけ元気があるなら、朝からヤルか?」 「んもうっ!」 気を取りなおしたサテラが怒声を上げるのだが、ランスは一向に動じない。 動じないどころか、気がつくとサテラはランスのペースに巻き込まれているのだった。 その隙に、シルキィは柱の影に隠れて身支度を整えていた。 そんなシルキィをキッっと睨み付けたサテラだったが、やれやれといった感じで再びランスに顔を向けた。 「ほら、ランス。いいかげんに服を着てよ」 「がはは、なんだ、俺様のカラダを見ているとしたくなってしまうのか?」 「もう、馬鹿なこと言ってないで、早く」 「そうだな」 そうして、ようやく身支度を整えるランス。 そして、それを上機嫌で手伝うサテラがいた。 今までもランスと朝を迎えたとき、彼の身支度を手伝おうとしたサテラだったが、「魔人が人間ごときの・・・」という想いから、他のメイドが手伝うのを黙ってみているだけであった。 しかし今のランスは魔王。自分が手伝うのも、至極当然のこと。 これからは思う存分ランスと一緒にいられる。 そう思うと自然に笑みがこぼれるサテラであった。 「そういえば、魔血魂はどうした?」 「なんだそれは?」 サテラはやれやれといった感じで肩を落とした。 そもそもサテラがランスに頼んだのは、シルキィの身体から魔血魂を取り出すことである。 しかし、取り出した魔血魂には目もくれずシルキィに襲い掛かったのは、いかにもランスらしい。 それがわかるだけに、サテラは苦笑するしか無かった。 「魔血魂は魔人の命となるもの。そんなところに転がしてないで、ちゃんと身体に取り入れていて」 ベッドの脇に転がっていた魔血魂を拾いながら、サテラは話を続けた。 「この魔血魂は今までランスが倒した魔人達のもの。そのままだと、そいつらが復活するの。そうしないためにも、ランスはこれを初期化しなくちゃ」 「初期化してどうするんだ?」 「初期化した魔血魂は、魔人の元となるの。それを使えば、新たな魔人を誕生させることができる」 「ふ〜ん・・・」 ちょっと首を傾げたランスだったが、思いついたようにサテラに尋ねた。 「人間も魔人に出来るのか?」 「魔血魂を埋め込めばできる。・・・何を考えてる?」 「いや、何も」 そう言うランスだったが、口元をゆがめてにやりとしているその姿は、何かを考えてるとしか思えなかった。 (まったく、変なことしなきゃいいけど・・・) そんなことを考えるサテラの姿は、なんとなくランスに振り回されるマリスを思い起こさせた・・・。 そうこうしてランス達が身支度を整え終わった頃、部屋に健太郎と美樹が訪れた。その後ろには、メガラスも控えていた。 「あの、王様、ありがとうございました」 「おお美樹ちゃん、落ち着いたか?」 「はい!」 元気そうな美樹とは対照的に、健太郎はやや目が赤く、疲れが見えた。おそらく寝ずに美樹を見守っていたのだろう。 「それでどうるすんだ?確か、ホ・ラガというジジイだっけか、あいつに頼むのか?」 「はい、ホ・ラガさんに元の世界に戻してもらいます」 「うん、すぐに元の世界へ帰りたいから」 「そうか」 ランスがうなずくと、美樹は急に目を伏せた。 「ごめんなさい、王様。王様にはいっぱい助けてもらったのに、結局・・・」 「がはは、気にするな。俺様にとっては些細なことだ」 美樹は気を取りなおしたように顔を上げると、もう一度深く頭を下げた。 健太郎もそれに倣う。 「すぐ行くのか?」 「はい」 「なら、メガラス、お前は二人を守ってホ・ラガの塔まで送れ」 「・・・承知」 「えっ、そこまでしてもらわなくても」 驚く健太郎に、ランスは言った。 「もう美樹ちゃんは魔王じゃなない。一人のか弱い女の子なんだぞ。送らなくてどうする」 あ、そうかとうなずく健太郎と、恐縮しきりの美樹。 そんな二人を、シルキィは複雑な表情で見守っていた。 魔王であったガイが、そしてホーネットが託していたもの。 それが今、失われようとしている。 しかし、二人の様子を見ると、それでよかったように思えてしまうのだった。 「それじゃあ、王様、本当にありがとうございました」 美樹は大きく一度頭を下げると、健太郎と共にその場を後にした。 メガラスもそれに続き、部屋には元の3人が残された。 「いろいろあったけど、このお城を見るのもこれが最後だって思うと、ちょっと寂しいね」 そこはリーザスを見下ろす小高い丘。 ホ・ラガの塔を目指す美樹と健太郎は、リーザスから少し離れたこの丘で、しばしの休憩を取っていた。 「うん、本当に善い人達ばかりだったからね」 「ちょっと名残惜しいかな」 美樹は口元にさびしそうな笑みを浮かべた。そんな美樹をはげますように、健太郎は立ち上がる。 「よっと。でも、元の世界が僕達を待っているから、そろそろ行かなくちゃ」 「うん、一緒にね!」 二人はまた手を取り合い、その場を後にした。 その後、この世界で二人の姿を見ることは無かった・・・。 | ||||
Prev | Up | Next |