Everyday I'm looking for a rainbow.
求める者達 EPISODE:08 2003.01.05



「いろいろあったけど、このお城を見るのもこれが最後だって思うと、ちょっと寂しいね」

そこはリーザスを見下ろす小高い丘。

ホ・ラガの塔を目指す美樹と健太郎は、リーザスから少し離れたこの丘で、しばしの休憩を取っていた。

「うん、本当に善い人達ばかりだったからね」

「ちょっと名残惜しいかな」

美樹は口元にさびしそうな笑みを浮かべた。そんな美樹をはげますように、健太郎は立ち上がる。

「よっと。でも、元の世界が僕達を待っているから、そろそろ行かなくちゃ」

「うん、一緒にね!」

二人はまた手を取り合い、その場を後にした。

その後、この世界で二人の姿を見ることは無かった・・・。





求める者達
- EPISODE:08 -






ランスの部屋には、リーザスに来ている魔人の中で、メガラスを除く全員がそろっていた。

その表情は昨日とはうってかわって一様に明るいものだった。

「よし、それじゃ行くか!」

ランスの掛け声と共に、一斉に窓から飛び出していく。

が、シルキィだけがそれに続かなかった。

「シルキィ、どうした?」

サテラが心配そうに声をかけるが、シルキィは赤くなってうつむいてしまった。

そこにランスもやってきて、顔をのぞきこむ。

「おい、どうした」

「すみません魔王様。腰に力が・・・。多分、魔血魂を一気に抜いたせい・・・」

力なくうつむいてしまったシルキィを、ランスはひょいっと抱き上げた。

「あっ!」

「がはは、そうか。俺様の相手は少しきつかったか」

ランスは大声で笑うと、シルキィを抱えたまま窓を飛び出した。

「ま、待ってよランスー」

慌ててサテラが窓を飛び出し、他の魔人たちもそれに続いた。

その部屋には静寂が戻り、後にはただ開け放たれた窓のカーテンだけが、静かにゆれていた。





「ランスー、早いよー」

前を行くランスを、サテラは必死で追いかけていた。

まだ魔王に覚醒してほんの1日と経っていないはずのランスだが、早くもその力を使いこなし始めていた。

「空を飛ぶのがこんなに気持ち良いものだとは思わなかったぞ、がははは」

シルキィを抱えたまま、ランスはものすごい速さで飛んでいた。

一方、抱きかかえられているシルキィは力を抜き、その頭をランスの胸に預けていた。

抱きかかえられた時こそ緊張して硬くなっていたシルキィだが、今ではすっかり落ち着き、穏やかな表情を浮かべていた。

そんなシルキィを見てサテラはずるいっ!と思う反面、今までの彼女の苦難を考えると、このぐらいはしょうがないとも思う。

そんな二つの想いが交錯してか、サテラは自然と眉間にしわをよせ、難しい顔をしていた。

それに気づいたハウゼルが「どうしたの?」と声をかけてきたが、そんな想いを言えるはずも無かった。

「なんでもない。それより、急ぐよ!」

ランスから視線をはずし、ただ前だけを見据え、サテラはスピードをあげるのだった。





〜 〜 〜 〜 〜






魔王の城。

魔物の世界の中心にそびえる城である。

この城がいつ頃築かれたかは定かではない。

だがその風格は、この城が遥か遠い時代から魔王と共にこの世界にそびえ立っていた事を十二分に感じさせるものだった。

その城は今、恐ろしい程の禍々しさを備えている。

元より綺麗な城ではなかったが、ケイブリスがその主となってから、一層恐ろしげな雰囲気をまとった城となっていた。

城の周りには、数多くの魔物がたむろしている。

メデュウサ、ケッセルリンクといった魔人が居ない今、彼らを統率する魔人は無く、文字通り城の周りに居るだけであった。

そんな魔物たちの様子を見下ろす影がある。

サテラ、シルキィを始めとするホーネット派の魔人たち。それに、新たに魔王として覚醒したランスである。

「どうします、魔王様?。正面から行くには時間がかかりそうですが・・・」

「ねえランス、強制力使っちゃえば?」

そう言ってランスを見上げるシルキィとサテラ。しかしランスは口の端を上げてにやりと笑った。

「それじゃつまらんだろ。それに、この力がどれほどのものか試してみたいしな」

そう言うとランスは魔剣カオスを構えた。そして、皆が見守る中、カオスを大きく振りかぶった。

「ランスアターーーーーーーック!」

ドッカーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!

・・・・・・・・・。

・・・・・・。

・・・。



すざまじい破壊音。

一転、その後には静寂が訪れた。

巻き上がった粉塵で、辺りは霧に包まれたように何も見えなかった。

やがて風が舞い、再び世界がその姿を表した。



「・・・・・・・」



誰も言葉が無かった。

そして、城門も無かった。

何人たりとも寄せ付けない、重厚だった魔王城の門は、文字通り原型を留めないほど砕け散っていた。

城門近くにいた魔物はほとんど吹き飛んでいた。

他の魔物たちも何が起こったのかすらわからず、逃げることも忘れ立ち尽くしていた。

「凄い・・・」

「まさか、これほどとは・・・」

「なんなのよ、これ・・・」

ランスの傍にいた魔人たちも、その力にはただ驚くだけであった。

魔王の力。

それは絶対的なものである。

もちろん頭では理解している。

ただ、争いを好まなかった前魔王のガイはその力を振るわなかったため、それを目にすることは無かった。

そしてもう1つ。

魔王として覚醒したばかりのランスが、これほど自らの力を使いこなすとは思っても見なかったからである。

「がはははは、なかなかいい気分だな。手を抜いてさえこれだからな」

「えっ、今ので手を抜いていたんですか?」

傍らにいたハウゼルが驚いて問い返す。そんな彼女に、ランスは笑って言った。

「おいおい、こっちは女の子一人抱えてるんだぞ。本気なわけあるか」

確かに、ランスは未だシルキィを抱えたままだった。

つまり、片腕で、しかも踏ん張りの聞かない空から放った一撃だったのである。

それですら、これだけの威力を誇るものであった。

「私、女の子だったんだ・・・」

皆が驚愕の真っ只中にいる時、一人シルキィはランスの言葉に反応して頬を赤らめていた。



そんな様子を見たサテラが、我に返ったようにランスを引っ張った。

「ほら、ランス、早く魔王城へ乗り込もう!」

「ん、そうだな。ホーネットだっけか、早いとこ助けんとな」

その言葉に、サテラの、ハウゼルの、そしてシルキィの表情が一変した。

ランスを魔王にしたのも、すべてはホーネットを救うため。

そしてこれからがその正念場になるのである。

「魔王様」

「ん?なんだ?」

「もう大丈夫ですので、降ろしてください。これ以上甘えるわけにはいきません」

そんなシルキィにランスは「無理はするなよ」と一声かけると、抱えていた腕を放した。

最後にシルキィのお尻を一撫でする辺りはランスらしかったが。

一瞬顔を赤くしたシルキィだったが、再び表情を引き締めた。

そして、軽く腕を回し、力の具合を確かめる。

最後にこぶしをぎゅっと握り締め、うなずいた。

それを見たサテラもうなずき返す。

「いくよ、みんな!ホーネットを救うんだ!!!」

その声と共に、ランス達は崩れ落ちた城門の上から、魔王城へ突入した。




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