Everyday I'm looking for a rainbow.
求める者達 EPISODE:09 2003.01.05



「魔王様」

「ん?なんだ?」

「もう大丈夫ですので、降ろしてください。これ以上甘えるわけにはいきません」

そんなシルキィにランスは「無理はするなよ」と一声かけると、抱えていた腕を放した。

最後にシルキィのお尻を一撫でする辺りはランスらしかったが。

一瞬顔を赤くしたシルキィだったが、再び表情を引き締めた。

そして、軽く腕を回し、力の具合を確かめる。

最後にこぶしをぎゅっと握り締め、うなずいた。

それを見たサテラもうなずき返す。

「いくよ、みんな!ホーネットを救うんだ!!!」

その声と共に、ランス達は崩れ落ちた城門の上から、魔王城へ突入した。





求める者達
- EPISODE:09 -






「おらっ、邪魔だ」

「グギャァーーーーーーーーーーーーー!」

断末魔の叫びと共に、ランスの数倍の巨体を持つ魔物が崩れ落ちた。

サテラの案内で、ランスはまっすぐに王座のある魔王の間に向かった。

その前には多くの魔物が立ちはだかった。

ケイブリスの親衛隊である。

親衛隊と名の付く通り、ケイブリスの周りを固める魔物達であり、その実力もケイブリスの部隊の中では選りすぐりのものだったが、魔人の、そして魔王として覚醒したランスの敵ではなかった。

次々と現れる魔物をすべて骸に変え、ものの数刻で、ランス達は魔王の間にたどり着いた。





「ん、表が騒がしいな。なんだあ?」

手にした玩具から目を離し、扉の方にケイブリスが首を向けると、扉が開き、一人の魔物将軍が飛び込んできた。

「ケイブリス様、敵が、魔人が・・・ガフッ!」

その魔物がケイブリスに急を知らせようとしたが、その言葉は続かなかった。

よく見ると、その腹からは、一振りの黒光りする剣が突き出ていた。

「んあ?」

何が起こったのかわからず、ケイブリスは首をかしげた。

その時、彼の耳に聞きなれた魔人達の声が聞こえてきた。

「ホーネット!」

「ひどぃ・・・」

そう言うと、サテラとシルキィは口に手を当てた。

魔王の間に飛び込んだランスと魔人たちの目に入ったのは、小山ほどもある巨体を構えるケイブリスと、体の割に小さな腕の1つにぶらさげられた、ホーネットの姿だった。

もはや意識が無いのか、サテラの小さな悲鳴にも、ホーネットの反応は無かった。

「なんだ、何かと思ったら、弱っちい奴らか。今更オレ様に何か用か?」

そう言うと、ケイブリスは子供が飽きた玩具を放り出すように、サテラ達に向かってホーネットを投げ捨てた。

「ホーネット様!」

その身体を、サテラとシルキィが受け止めた。

そして、サイゼル、ハウゼル共々、心配そうにその顔を覗き込む。

だが、身体のあちこちに生々しい傷を追っているホーネットの瞳は澱み、何の反応も返っては来なかった。

「よくも、よくもホーネットを!!!」

そう言って涙目になったサテラは、怒りにまかせてケイブリスに向かっていこうとした。

しかし、そんな彼女の肩を掴む者があった。

「お前はそいつを見てろ。俺様だけで十分だ。きっちりお礼をしてやらねえとな」

そう言うと、ランスはサテラを下がらせ、魔剣カオスを肩に担ぐと、真っ直ぐにケイブリスへ足を進めた。





「なんだキサマは」

「うるさいぞデカブツ。俺様を知らないのか?。これだからケダモノは」

「なんだと!。弱っちい人間風情がぁぁぁ!!!」

そう言うと、ケイブリスは6本ある腕のうち、もっとも太い腕を振り回し、ランスにたたきつけた。

ランスはそれを身体を回転させるようにしてかわす。そして回転させた勢いをそのまま剣にのせ、体制の崩れたケイブリスに切りつけた。

バュッ!

「グガァァァァァァ。オデの、オデの腕がぁぁぁぁ」

ランスの剣は、ケイブリスの小さな腕を一本切り飛ばしていた。

「よくもオデ様の腕を!」

「フンッ!」

怒り狂うケイブリスを鼻であしらうと、ランスは再びカオスを構えた。

そして、力と力の闘いが始まった。

ケイブリスは2本の太い腕を振り回し、そして小さな腕の1つに剣を握り締め、嵐のごとくランスに向かっていく。

それに対するランスもカオスを大きく振り回し、一歩も引く事無くケイブリスの攻撃をかわし、受け流し、そして剣を叩きつけて行く。

その様子を、サテラ達は固唾をのんで見守っていた。

「うーーー、ランス、なんでランスアタックを撃たないのよ。撃てば終わるじゃない」

「撃たないんじゃなくて、撃てないのよ」

唇を噛むようにしてランスを見つめるサテラに、ハウゼルが答えた。

「ランスアタックは気を溜める動作が必要なの。その為には足を止めて踏ん張らないと。でも、そうするとケイブリスの攻撃を避けられないわ。ケイブリス自身は確かに鈍いけど、奴の腕の動きは素早いわ。今魔王様が魔剣1本でケイブリスの5本の腕をあしらっている事だって、正直言って信じられないぐらいだもの」

しかしランスに焦る様子は無い。

それどころか、口元には笑みを浮かべ、カオスを振り回していた。

逆に、一向に攻撃の当たらないケイブリスに焦りが生じた。

「クソッ、ちょこまか動きやがって!」

ケイブリスの攻撃がだんだん大振りのものへと変わっていく。

その隙を見逃すランスではなかった。

そして、狙いを定めた。

ザシュ!

「グガァァァァァーーーー!」

ケイブリスの悲鳴があがった。

そして、立て続けに血しぶきが舞った。

ランスは、大振りで振り終わった後動きの止まる腕に狙いを定め、次々と切り飛ばしていった。

しかしそれでも、ケイブリスは残った2本の太い腕を怒りにまかせてめちゃくちゃに振り回す。

壁が砕け、石畳が砕けていく。

その破片を避けるため、サテラ達は慌てて後ろに下がった。

そんな事を意にも介さず、ランスは足を止め、カオスを構えなおした。

飛んでくる破片を避けようともせず、踏みしめる足に力をこめた。

「そろそろ終わりにしようか。いくぜ、ランスアターーーーーーーーーーーーーーック!!!」

ドカァァァァァァァァァッ!

ケイブリスは後ろへ弾き飛ばされた。

自分のために作らせた王座を壊し、壁にぶち当たって、ゆっくりと崩れ落ちた。

「ふぅ」

ランスは大きく息をつくと、ゆっくりと足を進めた。





「イデェ、イデェよう」

そこには何の迫力も無く、ただ痛みに怯える一匹の魔物がいるだけだった。

すべての腕が切り落とされ、身体の随所が裂けたケイブリスに、もはや立ち上がる力は残されていなかった。

「こんな馬鹿な。オデは魔王になるんだ。オデこそが最強の・・・」

そんなケイブリスを冷たく見下ろすと、ランスは剣を振りかぶった。

「無様、だな」

そう言って、ケイブリスの頭にカオスを付き立てた。

ここに、魔王ガイ亡き後、その力を持って多くの魔人を従えて新たな魔王になろうとしたケイブリスの野望は潰え、跡には深紅の魔血魂のみが残された。



「ランスーーーーーーーーー!」

そう言いながら、サテラはランスへ飛びついていった。

「おっと」

ランスはサテラを優しく受け止めた。

「大丈夫だった?。怪我は?怪我は無い?」

「ああ、大丈夫だ」

「本当?」

心配そうに見つめるサテラの頭を軽く叩くと、ランスはがははと笑って言った。

「この俺様があんなリス野郎にやられるわけ無いだろ。それより、お前達は大丈夫だったか?」

「うん。サテラ達は大丈夫。でも、ホーネットが・・・」

ランスが無事とわかって顔をほころばせたサテラだが、話題がホーネットのこととなると、再び沈んだ面持ちとなった。

ランスはそんなサテラの頭をもう一度叩いた。

「ほら、さっさと行って介抱してやれ」

「ランスはどうするの?」

「まだ終わったわけじゃないだろう。後はゴミ掃除だ」

「なにそれ?」

「城に残っているケイブリス派の魔物を退治してくる。ワーグ、行くぞ」

「わーい、お兄ちゃん、行こう行こう」

ランスとケイブリスの闘いにもあまり興味を示さなかったワーグだが、ようやくかまってもらえ、うれしそうにランスの元に寄って来た。

「それじゃ、後はまかせたぞ、サテラ」

「お兄ちゃん、早く早く〜」

「こらこら、腕を引っ張るな」

そうして、ランスは魔王の間を出ると、城に残っていたケイブリスの親衛隊等の残党を、次々と骸に変えていった。

そしてワーグはその魂を嬉々として回収していった。




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