Everyday I'm looking for a rainbow. |
求める者達 | EPISODE:10 2003.05.18 | |||
「ランスはどうするの?」 「まだ終わったわけじゃないだろう。後はゴミ掃除だ」 「なにそれ?」 「城に残っているケイブリス派の魔物を退治してくる。ワーグ、行くぞ」 「わーい、お兄ちゃん、行こう行こう」 ランスとケイブリスの闘いにもあまり興味を示さなかったワーグだが、ようやくかまってもらえ、うれしそうにランスの元に寄って来た。 「それじゃ、後はまかせたぞ、サテラ」 「お兄ちゃん、早く早く〜」 「こらこら、腕を引っ張るな」 そうして、ランスは魔王の間を出ると、城に残っていたケイブリスの親衛隊等の残党を、次々と骸に変えていった。 そしてワーグはその魂を嬉々として回収していった。 | ||||
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ホーネットはゆっくりと目を開けた。 まず目に飛び込んできたのは、見慣れた自分の部屋の天幕。 見慣れているはずなのに、非常に久々に見た気がする。 「ホーネット様っ!」 声のした方に視線を向けると、綺麗な水色の髪をした、シルキィの顔が飛び込んできた。 心配そうに自分を覗き込むシルキィに、大丈夫だと答えようとしたが、体が動かなかった。 「ホーネット様、まだ動いちゃ駄目!」 今度は別の方から声がした。 そちらに目を向けると、こちらも心配そうな表情を浮かべた、サテラの顔があった。 もう一度目を閉じてみる。 そして、ゆっくりと記憶を辿っていった。 (私はケイブリスに敗れ、そして・・・) 再び目を開ける。 すると、その目にはシルキィ、サテラだけでなく、ハウゼルと、何故かケイブリスについていたはずのサイゼルの姿があった。 「大丈夫ですか、ホーネット様」 気遣わしげなハウゼルの声に、小さくうなずく。 「ありがとう、シルキィ、サテラ、サイゼル。それから、サイゼルも。あなた達が助けてくれたのね」 「あ、あたしは別に・・・」 なぜかそっぽを向くサイゼル。だが、目線はちらちらとこちらを窺っている。それをハウゼルが軽くたしなめている。 よくわからないが、サイゼルも少しは素直になれたようだ。 「みんなが無事でよかったわ」 「申し訳ありません、ホーネット様。私が至らないばかりに・・・」 「違うわ、シルキィ。あなたは良くやってくれたわ。私こそ、あなたにはつらいことばかり頼んでしまったわね」 「そんなことありません、ホーネット様」 尚も何か言おうとするシルキィを、ホーネットは目で制した。 「それよりも、私はもう大丈夫だから、みんなも休んでね。シルキィ、目が赤いわよ」 「そんな、私は大丈夫ですから」 「そうは見えないわ。それに、私ももう少し休みたいから」 「あ、すみません」 ホーネットは、うつむいてしまうシルキィに優しい目を向けた。 「それでは、何かあったらすぐお呼び下さい」 そう言って、シルキィは部屋を出て行く。それに習って、サイゼル、ハウゼルも部屋を出た。 最後にサテラが部屋を出ようするが、ホーネットはそれを止めた。 「ごめんなさい、サテラ。貴女は残ってもらえるかしら」 「ホーネット様?」 サテラは慌ててホーネットのもとに戻ると、その顔を心配そうに覗き込む。 「大丈夫、体のことではないわ」 ホーネットは軽く息をつき、表情を引き締めた。 「何が起きたのか、話して。特に、美樹様がどうなったのかを」 サテラはビクッと体を震わせた。 「それは・・・」 言い淀むサテラ。 ホーネットは特に促すわけでもなく、じっとサテラが話し出すのを待った。 「ふぅ。。。。」 ホーネットは、大きく溜息をついた。 そこには、ホーネット以外誰も居ない。 サテラから、全てを聞いた。 どれも信じられないようなことばかりだった。 特に、今まで人間の王だった者が、魔王となったこと。 父であるガイが、異世界の人間に魔王を譲った時も、どこか信じられない思いがあった。 しかし、今度はそれ以上だった。 サテラだけで無く、サイゼルやハウゼル、加えてワーグまでもが、人間の王が魔王となることを望んだのだという。 それに、その人間の王は、人間でありながら、魔人であるカミーラやレッドアイを倒したのだという。 加えて、サテラはその人間の王に、一角の想いを抱いているようだ。 (私は、どうしたら良いのかしら。) ホーネットの頭には、ただそれだけがぐるぐると回っていた。 そんな時、ドアをノックする音が響いた。 「誰かしら?」 「ホーネット様、よろしいですか?」 それは、控えめなシルキィの声だった。 「ええ、入って頂戴」 シルキィは静かに扉を開けると、ホーネットの枕元に座った。 「サテラから聞いたわ。あなたにも無理をさせたわね」 「いえ、それより、ガイ様の、そしてホーネット様の願いをかなえることは出来ませんでした。申し訳ありませんでした」 そう言って、シルキィはうつむいた。 「いいのよ、シルキィ。美樹様は無事、元の世界に戻られたようね」 「今、メガラスが送り届けていますので、問題無いかと。残念ながら、魔王として覚醒しては頂けませんでした」 そこで、シルキィは一旦言葉を切った。 「ですが、人間に戻られた美樹様の笑顔を見て、私はそれで良かったと思いました」 「そう・・・」 それを聞いて、ホーネットは寂しそうに笑った。 結局、自分は何のために、ここまで体を張ってきたのだろうか。 ただ、父であるガイの思いを実現させるためだけに、苦境を耐えてきたのではないだろうか。 しかし、美樹は元の世界へ帰って行った。 しかも、あれほどガイの言うことを忠実に守っていたシルキィでさえ、それを良しとしている。 ホーネットは、何か大きなものを無くしてしまった、そんな喪失感にかられた。 「ありがとう、シルキィ。もう少し休むわ」 そして、ホーネットは目を閉じた。 シルキィは無言で頭を下げると、その部屋を出て行った。 夢の中で、ホーネットは戦っていた。 名前も知らぬ魔物たち。 敵対した魔人たち。 そして最後に打ちかかって行った相手。それは、父であるガイだった。 魔王ガイに打ちかかっていったところで、目が醒めた。 「なんて夢なのかしら・・・」 軽く息をついて、両腕に力を入れてみる。 どうやら少しは回復して来たらしく、なんとか体を起こすぐらいはできそうだ。 ゆっくりと体を起こし、首を振ってみる。 まだ体に気だるさは残るものの、この調子であれば、1週間もあれば元のように動くだろう。 ガンガン! 荒々しいノックの音がして、いきなり男が入ってきた。 その後ろには、サテラの姿がある。 「駄目よ、ランス。まだホーネット様は体調が優れないんだ」 「わかってる、話をするだけだ。それより、お前はここで待ってろ」 「えー!、ランス、何するつもりなのっ!」 「話をするだけだって言ってるだろ。あとでまた可愛がってやるから、ちょっと待ってろ」 「なっ、ホーネット様の前で、そういう事を言うな。それより、本当にホーネット様に変なことしたら、承知しないからな」 「わかったわかった」 真っ赤になったサテラを残し、一人の男が枕元に立った。 恐らく彼が、人間の王なのだろう。 今はれっきとした魔王の気を備えているが、どこか魔物が備えている気配とは、違う感じがした。 何より、その目に宿る意志の力が、並々ならないものであった。 「お前がホーネットか。やつれてはいても、美人は美人だな」 そう言って、男はニヤリと笑った。 その台詞とは裏腹に、品の悪さは感じられない。 むしろ、本当にそう思ったから言った、そんなあっさりとした印象すら受けた。 「あなたが新しい魔王様ですね。ケイブリスから助けていただき、ありがとうございました」 「気にするな。俺様はランス。魔王であろうとなかろうと、最高のナイスガイだ」 そう言って、ランスはガハハと笑った。 「私だけでなく、ハウゼルやシルキィも救って頂いたそうですね。本当にありがとうございます」 「ふん、当然のことをしたまでだ。全ての可愛い子は、俺様のものだからな」 「それから、いきさつはサテラから聞きました。美樹様も無事元の世界に戻していただき、感謝しております」 ホーネットは深々と頭を下げた。 本当に感謝しているのか、自分でもわからない。だが、シルキィの様子だと、そう言う事しか出来ない、そう思えた。 「まあ、あいつらは、元々この世界の人間じゃないからな。ああするのが自然なだけだ」 「そうですか・・・」 「まあ、俺様が天才だから出来たことだ。普通の人間には出来ないことさ」 そう言って、またランスは大きく笑った。 その様子を、ホーネットは不思議そうに見ていた。 (尊大というのだろうか・・・威張っているというより、そうして当然というような、何か自信の塊のようね。) 「ん、なんだ、俺様の顔に見とれたのか。まあ、当然だな」 笑顔を崩さないランスに、ホーネットは、懸念していた一つの疑問を投げかけた。 「それで、新しい魔王様にお聞きしますが、よろしいですか?」 「ああ、何でも聞いてくれ」 「魔王様は、これから人間とどのように接されるお積りですか。できましたら、ガイの方針である、人間には不干渉として頂きたいのですが」 「そいつは無理だな」 「えっ?」 「サテラから色々聞いているんだろう?。今、人間と魔物は、争いの真っ只中だ。それも、人間が有利な状況でだ」 まあ、俺様がいたからだけどなとランスは胸を張って続けた。 「今更不干渉などと言っても、人間を押さえるのは無理だ」 「そんな、それではガイが・・・」 「それからもう一つ。俺様は世界を制覇する」 「・・・」 「魔物だろうが人間だろうが関係無い。その全ては俺様が制する」 「まさか、本気ですか?。今だかつて、魔王ですら、世界を制したことは無いのですよ」 「それは今まで俺様に勝るものが居なかっただけだ。俺様に出来ないことは無い!」 その自信に満ちた姿に、ホーネットはただ圧倒されていた。 黙ってしまったホーネットに、今度はランスが尋ねた。 「おい、ホーネット。お前はさっきからガイがどうこうと言うが、お前の考えはどうなんだ?」 「私の考えですか?」 「ああそうだ。ガイが人間に不干渉という考えを持っていたのは知っている。だが、お前はどうなんだ」 「私の・・・考え?」 ホーネットは、2度3度と目を瞬かせた。 (私・・・私は、どうしたかったのだろう。ただ、父がそう望んだから。いや違う、私もそう思って・・・。) どこか呆けたような表情を浮かべるホーネット。 ランスはニヤリと笑うと、いきなりホーネットの顎に手をかけ、その唇を奪った。 「あっ・・・」 驚きで目を見開いているホーネットをよそに、ランスはその口を蹂躙する。 2〜3分もそうしていただろうか。 ランスはゆっくりと唇を離した。 ホーネットは驚きを顔に張り付かせたまま、固まっていた。 「おい、ホーネット。次に会う時までには、自分の考えを用意しておけ。もし無かったら、黙って俺様に従うんだぞ!」 そう言って、ランスは再びガハハと笑い、部屋を出て行った。 後には唇に手を当て、やや頬を上気させているホーネットだけが残された。 | ||||
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