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こどもたちといっしょ!
  第四話 「なつかしい街かど」

皆さんはどんな事で自分の年齢を実感しますか。

体力の衰え、両親の白髪の数、お子さんの成長、色々あると思います。

私の場合、やはり何といっても、塾でバイトしていたときの教え子達に街中で会ったとき、日々の流れを実感します。

私は高校一年から大学四年までの9年間、近所の学習塾でバイトをしていました。
これだけ長いことバイトをしていると、就職してサラリーマンとなった現在でも、町中いたる所でかつての教え子やその父兄に出くわし挨拶されます。

小学生だったかつての生徒が、中学校の制服を着て現れ挨拶してくれたとき。
子供の高校受験の相談に来ていた父兄から、その子が大学に入ったと教えてもらったとき。
高校生だったかつての生徒が、大学院に進んだと報告に来てくれたとき。

寂しくもあり、嬉しくもある、妙にくすぐったい感覚。
まるで、私自身がその子の父親にでもなったかのような、ちょっと誇らしい気持ち。

これが教師冥利というやつでしょうか。




サラリーマンとなって4年目、28歳のときのことです。

雑誌を買いに近所の本屋に出かけた私は、不意に赤ん坊を抱えた女性に挨拶されました。

「こんにちは、先生。お久しぶりです。」

?・・・誰だろう。

ずいぶん若く見えるけど、私を先生と呼ぶんだから生徒の父兄だろうし・・・でも思い出せないな・・・何となく覚えはあるんだけど・・・。
いかんな、塾の講師を辞めてたった4年で生徒や父兄の顔を忘れてしまうようじゃ。

「あの、失礼ですが、どちらの父兄さんでしたっけ。」

すると女性はちょっとびっくりした顔をしたあと、くすくすと笑い始めました。

「いやだ、先生、忘れちゃったんですか?私です。M子ですよ。」





・・・・・・・・・・・・・・・。





なんだってえ!?





それは、私が高校一年のとき初めて受け持った小学四年生クラスの生徒の一人で、小学六年生のときにこの町から引っ越していった、あのM子でした。

なんでも高校卒業後に結婚し、旦那の転勤でこの町に戻ってきたとのこと。

こんなに立派に育つと分かっていればもっと手懐けておくんだった。
確かに、私が高校一年(16歳)のときにM子は小学校四年生(10歳)だったのですから、私が28歳の現在、M子は22歳のはずです。

もう子供がいたっておかしくはありません・・・けど・・・。

私の中のM子は、この町から引っ越していった小学六年生のときのままです。

いわれてみれば確かに面影はありますが、10年の空白をすっ飛ばし、いきなり大人になって赤ん坊を抱いて登場されても、なんというか、その。












駆け落ちした娘が孫を抱いて帰ってきた気分でした。












「先生、この子もうじき2歳になるの。ね、だっこしてあげて。」

母親に似て人懐こいその赤ん坊は、私の腕の中であどけない笑顔を見せてくれました。












初孫をだっこしたお祖父さんの気分でした。












「先生、塾やめちゃったんですか。この子が大きくなったら見てもらおうと思ってたのに。」

かんべんしてくれ(泣)




タイトルは、ヘンリー・ジェイムズの小説から拝借。



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