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こどもたちといっしょ!
  第五話 「時は準宝石の螺旋のように」

先日、会社を定時前にあがった私は、夕日に染まる地元の裏道を、自宅に向かってのんびりと歩いていました。

街に活気があるうちに帰宅するのは本当に久しぶりです。
商店街のざわめきやパチンコ屋の賑やかな音楽を耳にしながら歩いていると、深夜に黙々と帰宅するときとは違い、仕事の疲れが癒されるようにさえ思えてくるから不思議です。

やがて、自宅の近くにある、二十年前に生徒として通い、後に講師として九年間バイトをした学習塾の近くに差しかかると、子供達の笑い声が大通りの方から聞こえてきました。
時間からして小学生の部が終わったのでしょうか。

そういえば、子供達の声を聞くのも久しぶりだな。

わたしは立ち止まると、大通りの方に顔を向け、ぼんやりと子供達の歓声に耳を傾けました。

塾の講師をしていた時期が長かったせいでしょうか。別に変な意味でなく、子供達の嬉しそうな笑い声が一番元気を与えてくれます。

ありがとう、坊ちゃん、嬢ちゃん。
おじさん、明日もお仕事がんばっちゃうぞっ。 < 危ない三十路オヤジ


ふと視線を元に戻すと、塾の裏口から白衣を着た青年がタバコを加えて出てくるのが見えました。この塾では、講師は白衣を着用することになっています。きっと授業が終わって一服しに出てきたのでしょう。

「あれ、あいつは・・・」

その青年に見覚えのあった私は、ゆっくり近付くと声をかけました。

「U司、久しぶりだな。」

「あれ、先生じゃないですか。お久しぶりです。」

ひょろりとして背が高いその青年は、十年ほど前、私がこの塾のバイト講師だった頃に教えていたU司でした。
当時、私は大学四年生でU司は小学四年生。翌年に就職を控えていた私が担当した最後の小学生クラスの生徒でした。

私が就職してからも、ときおり街中で会ったりして成長を見守ってきたこともあり、既に息子のような気さえしている(おぃ)のですが、数年前、大学進学を機にこの塾で講師としてバイトを始めていたのです。

「今日は早いですね。仕事が片付いたんですか?」

「いや、昨夜は徹夜だったから早帰りさせてもらえただけ。」

「・・・お疲れ様です。」


U司と会うのは久しぶりだったこともあり、しばらくお互いの近況報告や昔の思い出話しなどに花を咲かせました。

「ふーん、大学院に進むんだ。塾のバイトは続けるの?」

「ええ、このまま続けようと・・・」

「せんせーっ」

その時、塾の生徒と思しき小学生の男の子数人が、私達の方に声をかけながら歩いてきました。

「お前の生徒?」

「ええ、今年の新四年生です。」

ほお(−_−)可愛い盛りじゃないか。」

「・・・今、妙な顔文字が見えたような気が・・・」

「気のせいだ。それより行ってやったらどうだ?」

「はい、それじゃ失礼します。・・・おーい、いつまでも遊んでないで早く帰れーっ。」

そう言いながら子供達の方に歩いて行くU司を見ながら、私は思わず吹き出してしまいました。
十年前、授業が終わってもなかなか帰らず、いつも私に怒られていた子供こそ、他ならぬU司だったからです。


なんとなく微笑ましい気持ちでU司と子供達が話しているのを眺めていたら、一人の男の子がちらりと私を見ると、U司に尋ねました。

「あのおじさん、だれ?」

うーん、やっぱりおじさんかぁ(涙)
まあ、さすがにもう自分でも自覚はあるけどね。いい加減、受け入れないとなぁ。

「俺がこの塾で教わっていた先生だよ。」

「先生の先生?」

「そう、そう。」

先生の先生、か。

ふと、私は想像してみました。

遠い昔、この塾の生徒だった私が後に講師として教える立場に回り、今、その私の生徒だったU司がやはり講師となって子供達と向き合っているように、そう遠くない将来、U司の生徒であるあの子供達が講師になったとしたら。

そして、私とU司がときおり昔話しに花を咲かせているのと同じように、U司とあの子供達が昔話しに花を咲かせるようになったとしたら。

そんな風に考えると、年を取るのも悪くないかな。

うん、悪くない。

悪くな・・・

「先生の先生・・・お父さんのお父さん?」

「まあ、そんなもの。」

「じゃあ、おじいちゃん先生だね。」





カァーッ…カァーッ…

赤く染まる西の空に、家路を急ぐカラスが一羽。


溝口五位、いまだ嫁さんも居ないのに、既に長女の生んだ孫娘を抱っこする喜びを経験しておりますが、このたび長男の所に生まれた孫息子に「おじいちゃん」と呼んでもらうことが出来ました。

わーい。





・・・・・。





嫁えええええぇぇぇぇぇっ(号泣)




タイトルは、サミュエル・R・ディラニーの小説から拝借。

「ほお(−_−)」 : (c)兄貴の館(おぃ)

「嫁えええええぇぇぇぇぇっ」 : 吉田戦車「ちくちくウニウニ」で、ウニ先生(非モテ、独身)が放った珠玉の名台詞。




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