グオォォ・・・スピィィ・・・
ガタタン・・・ガタタン・・・
グオォォ・・・スピィィ・・・
ガタタン・・・ガタタン・・・
電車の走るリズムに合わせ、鼾(いびき)をかく酔っ払いがひとり。
時々「本日の焚木」に登場する、会社の同期Aから聞いた話です。
その日、会社帰りに同僚と軽く一杯ひっかけたAは、奥さんが恐いので 早めに切り上げると、自宅方面に向かう地下鉄へと乗り込みました。
まだ夜の9時を少し回ったばかり。
混雑の残る地下鉄の中、ほろ酔い気分でつり革につかまっていたAの背後で急に他の乗客たちが騒ぎ始めました。
何事?と思ってAが振りかえると、サラリーマン風の酔っ払いがひとり、電車の床に倒れて鼾(いびき)をかいていました。
Aと同じ駅から乗り込んで来たその酔っ払いは、Aに比べてかなり酔いが回っており、最初のうちは半分寝ながらつり革につかまっていたものの、ついに潰れてしまったのです。
あーあ、だらしないなぁ。
嘆息しながらも、Aは暫くその酔っ払いの様子を覗いました。
吐かれたり失禁されたりしたら大迷惑ですし、吐いたもので窒息でもしたら一大事です。
周囲の乗客たちも同じ気持ちだったのでしょう。
ある者は迷惑そうに、あるものは心配そうにその酔っ払いを見ていましたが、気持ち良さそうに鼾をかくだけで吐いたりすることはなさそうだと分かると、皆その酔っ払いから1メートルほど距離を置き、後は無視を決め込みました。
グオォォ・・・スピィィ・・・
ガタタン・・・ガタタン・・・
自分の周囲に空間が出来たのが分かるのか、その酔っ払いは徐々に手足を伸ばし、ついには「大の字」になってしまいました。
一旦無視を決め込んだAは、その有様に再び嘆息しました。
酔っ払いって普通は丸まって潰れるもんだろうに。
電車の中だってのに、大の字になって気持ち良さそうに鼾かいて。
大胆というか阿呆というか・・・んっ?
ひょこっ。
突然、乗客たちの隙間から幼い女の子が顔を出し、大の字になって寝ている酔っ払いに近づくと、頭の側にしゃがみ込みました。
そしてハンカチを取り出すと酔っ払いの顔にかけ、手を合わせて「なむなむ」と言い始めたのです。
おいおい、そいつ死んでねえって(汗
Aは、そして恐らくは他の乗客たちも、焦りました。
幼子のお葬式ごっこは愛らしいですが、場所が場所だし相手が相手です。
もし酔っ払いが暴れたりしたら怪我でもしかねません。
「@@ちゃん!」
その時、母親らしき人が乗客を掻き分け顔を出すと、悲鳴に近い叫び声を上げました。
「おかあさん」
女の子は立ちあがると、一直線に母親のもとへ駆けて行きました。
そして、母親に抱きかかえられたまま、別の車両へと移っていたのです。
酔っ払いの顔にハンカチをかけたまま。
セーラームーンのイラスト入りの。
グオォォ・・・
ふわっ・・・
スピィィ・・・
ふぁさっ・・・
酔っ払いが鼾をかく度に、セーラームーン・ハンカチが顔から僅かに浮き上がり、そしてまた顔の上に被さります。
Aも、他の乗客たちも、その異様な光景に対して、今度こそ完全無視を決め込みました。
程なく電車が最寄駅に到着したAは、転げ落ちるようにホームに出ると、最後に一度だけ電車の方へ振り返りました。
酔っ払いは、いまだセーラームーン・ハンカチを顔に乗せたまま、電車の床で大の字になって鼾をかき続けています。
きっと、終点まであのままなんだろうなぁ。
一瞬、Aはその酔っ払いを待ち受けているであろう運命に思いを馳せましたが、軽く頭を振ると、奥さんの待つ自宅へと帰って行きました。
私の家にセーラームーン・ハンカチがあるのは、実はこういうわけなのです。
「なんで起こしてくれなかったんだよ、同期A。おかげで千葉県の某駅で一晩明かすことになったんだぞ!?(泣)この薄情男めが。」
「満員の地下鉄でセーラームーン・ハンカチを顔にかけ大の字になって酔い潰れるような変態など、俺の同期には居ないぞ、溝口。」
Q 「溝口さんは無事にお仕事が片付いて更新再開したんじゃなかったんですか?(怒笑)」
A 「すみません、見通しが甘すぎました(泣)」
更新再開した・・・と思ったら、途端に停滞。
今回は告知すら出せずに大変申し訳ございませんでした。(平身低頭)
理由は上記の通り仕事の見通しを誤ったからなのですが、解決に当たって改めて思ったのは、
「やはり同期は頼りになる。」
という事でした。
ありがとう、同期の皆。(と、ここで言っても同期で見てるのはAだけですが。しかも今回ネタにしてるし。)
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