3月の焚木(全)       △戻る  ▲TOP

  02/03/29(金)   地下室のメロディー(後編)

前編はこちら(3/14)

中編はこちら(3/25)


A君とRさんが身を潜める地下書庫の通路へと、今まさに資料を取りに向かわんとするH君。

いい加減、もう二人を見捨ててしまおうかと思いましたが、私の性分がそれを許しませんでした。・・・・・我ながら嫌な性分だな(涙)

考えろ、考えろ。
えーと、H君は「そこの通路の書架と聞いてます」と言ったな。つまり、自分で資料の位置を確認したことがあるわけではない、ということだ。
よし、それなら何とかなる。

「@@@案件の資料はその通路じゃないよ、H君。」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。前にあっちの通路で見たことあるから。」

私は、二人が潜んでいる通路から離れた位置にある通路を指差しました。

「そうですか、ありがとうございます。」

H君は疑いもせず、私の指した通路へと向かいました。

ごめん、H君。
若い二人の将来と私の覗き疑惑回避の為、尊い犠牲となってくれ。

さあ、H君があちらの通路を捜してるうちに、二人が隠れている通路から@@@案件の資料を引っ張り出してこよう。確か通路の中ほどにあったはずだ。
でも、やっぱり二人に顔を見られたくはないなぁ。

・・・よし。

私は、通路の奥に対して背を向け、ずりずりと後退りしながら@@@案件の資料のある位置へと進みました。
これなら、通路の奥に潜む二人には、私の背中しか見えないはずです。


ずりっ、ずりっ、ずりっ、ずりっ

ずりっ、ずりっ、ずりっ、ずりっ

ずりっ、ずりっ、ずりっ、ずりっ

ずりっ、ずりっ、ずりっ、ずりっ

ずりっ、ずりっ、ずりっ、ずりっ

ずりっ、ずりっ、ずりっ、ずりっ












なんで私がこんな真似しなきゃならんのだ(泣)

いかん。泣くな、溝口。
泣いてる暇はない。さっさと資料を持ち出さねば。

程なく通路の中ほどに到着した私の目に、右側の書架に収まっている@@@案件の資料の入ったダンボール箱が映りました。
私は大急ぎでその箱をひっばり出すと、両手で抱え上げました。

きっと通路の奥で二人とも呆然としてるんだろうなぁ。

背中に二人の存在と視線を感じつつ、私は大急ぎで通路から脱出しました。

「ごめん、H君、やっぱりこっちの通路に合ったよ。」

「あ、わざわざ出して頂いたんですか。ありがとうございます。」

「いや、間違えたのは私だしね。さて、行こうか。手伝うよ。」

「すみません。」

さり気なくH君を促すと、私は地下書庫を出ました。

ふう。何とかなったな。よかった、よかった。
二人の乳繰り合いを覗けなかったを最後まで見守れなかったのは残念だけど、仕方ない。
でも、二人に私の正体、ばれちゃったかなぁ。





それから三ヶ月ほど後のこと。
結局A君からもRさんからも何のリアクションも無く、私自身も地下書庫での出来事を忘れかけていたら、Rさんと同じ課の我が同期Sから社内メールが来ました。

>A君とRさんの結婚が決まった。

>へえ、よかったじゃん。

いや、本当に。

三ヶ月前のあの時、最後は乳繰り合っていたとはいえ、最初のうちは喧嘩していたわけですから、やはり少々心配だったのです。

とはいえ、急といえば急だな。

>でも、二人ともまだ入社二年目だろ?もう少し先かと思ってたんだが。

>それがさ、どうも「できちゃった」らしくて。

・・・・・・・・・・・・なにぃ!?

>いま、三ヶ月だとさ。


三ヶ月。


三ヶ月前、というと・・・・・・・・・・・・・・・。














お父さんは許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ(泣)

人に散々苦労させといてやることやってんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇっ(泣)











私は夢を見ました。

A君とRさんが結婚して五年。
二人の間に生まれた坊やが無邪気な瞳で尋ねます。

「お父さん、お母さん、赤ちゃんはどこから来るの?」

A君が答えます。

「それはね、地下書庫でお父さんとお母さんが仲良くしていると、溝口五位さんが連れてきてくれ





嫌すぎ。





ごめん、坊や。

坊やの出生の秘密はおじさん一人の胸の中にしまっておくよ(T▽T)



−完−




30万ヒット到達しました!


30万ヒットを踏まれたのはたらい様でした。おめでとうございます!

これだけ不定期な更新を続けているにも係わらず、大勢のお客様にお越し頂きまして、また感想メールなども度々頂きまして本当にありがとうございます。
皆様のご好意に対してまともなレスも出来ない自分が歯痒くてなりませんが、これからも少しでも楽しんで頂けるように頑張っていきたいと思います。



  02/03/25(月)   地下室のメロディー(中編)

前編はこちら


「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・( ̄▽ ̄;;;;;;;;

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・( ̄▽ ̄;;;;;;;;;;


こ、困った。

エロゲーなら脅迫して陵辱ルートへ持ち込むか、3Pに雪崩れ込む所だが、この場はそうもいくまい。脅迫するにはちょっと材料不足だし。

声を聞かれはしたが、あれだけでは流石に私の正体を推測はできないだろうし、ここは二人を安心させるため「誰にも言わないよ」と声をかけてから全速力で脱出するのが無難かな。

・・・かえって不安がらせる結果になるような気もするが・・・ま、いいか(おぃ)

そう決めると、私はハンカチを口に当て、声音を変えて二人に声をかけようとしました。

「誰・・・」

「誰か居るんですか?」

その時、書庫の入り口で男性の声がしました。
私の声でもA君の声でもありません。

と、いうことは・・・

ちょちょちょちょっと待て、さらに誰か来ちゃったよ。

いかん、これは不味い。

私一人なら見て見ぬ振りをすればよいけれど、第三者に見られたら相手によっては本当に庇いきれなくなるぞ。
まだ乳繰り合いを始めたばかりだから服まで脱いでやしないだろうが、それでも二人して何をやってたのかなんて一目瞭然だろうし。

それに、下手をすると先輩として二人を見守っていただけの私にもあらぬ嫌疑をかけられてしまうなんですかその目はかもしれないし。

ここは、「書庫に居るのは私一人」ということにするしかないな。

私はハンカチをポケットに仕舞うと、書庫の入り口に向かいました。
こうなったら、二人に声を聞かれるのは止むを得ません。
多少声を聞かれても、名前さえバレなければ、そう簡単に私だと特定はできないでしょう。

なるべく自然に振舞いつつ、私は入り口に立つ人影に声をかけました

「申し訳ない、ちょっと奥で仮眠を取ってて。」

「あ、そうでしたか。お邪魔してすみません。」

入り口に立っていたのは、あまり面識の無い後輩H君でした。

この場合、面識の薄いのが吉と出るか、凶と出るか。
頼むから私の名前を口走らないでくれ

「こんな所で寝てるんですか、溝いや、ここだと人気も無いし静かだから。」

ば、馬鹿野郎、言ってる側から俺の名前を口走るんじゃねえ(汗)
二人に俺の名前を聞かれちまうじゃねえか。
ここは一方的に話を進めちまおう。

「それよりなんで書庫なんかに来たの?探し物?」

「あ、はい。@@@案件の資料を探しに来まして。」

@@@案件?
私が入社した当時の案件じゃないか。随分と古いものを。

「なんでそんな古いものを?」

「いえ、あの案件で作ったシステムを全面更改する事になりそうで、当時の資料を一通り引っ張り出すことにしたんですよ。」

なるほどね。
えーと、あの資料なら見たこと有るぞ。
確か、A君とRさんが潜んでいる通路の書架に有ったような・・・





最悪。





い、いや、まだ救う余地はある。
こうなったら二人に顔を見られても仕方ない。
H君には反対側の通路の書架を探させて、その間に私が二人の潜んでいる通路から資料を引っ張り出してこよう。そうすれば・・・

ちょっと待て。
もしかしてもしかすると・・・。

「資料の場所は分かってるの?」

「あ、はい、そこの通路の書架と聞いてます。」

H君の指は、A君とRさんが潜んでいる通路を差していました。





万事休す。

もう・・・あきらめちゃってもいいよね?(T▽T)



続く




(Τ▽Τ) : (c)「碑文」 (おい)



申し訳ありません。時間の都合もあり、三部作になってしまいました。
後編(完結編)は水曜か木曜の夜にはUPできると思います。



「アニキまつり」は盛況のうちに終了したようです。

当サイトも大勢のお客様をお迎えできたようで何よりです。
その代償として一般のお客様に逃げられたような気がするのはきっと気のせい。

ただ、会社で見ていて「思わずディスプレーの電源を切ってしまった」方とか、「あわててノートパソコンの蓋を閉じて不審がられた」方とかいらっしゃったようで、申し訳ございません(苦笑)

3/31(日)には「兄貴の館」終了に合わせた更新を行いますが、この時は背景は普段のままなので、ご心配なく(笑)


ちなみに、肝心の兄貴様は「アニキまつり」のおかげでえらい目に会われた(3/22付「愛と鬼畜の日々」ご参照)ようで、さすがは「自爆王」と言うべきでしょうか。
終了までにあと一回は自爆を。


  02/03/21(木)   「兄貴の館」に花束を


(ログ編集中です。しばしお待ち下さい。)


  02/03/19(火)   再び愛は勝つ

ちょっと更新の時間が取れず、「地下室のメロディー(後編)」の完成が遅れています。
お待たせして大変申し訳ございません。

その代わり、という訳ではないのですが、諸般の事情により一旦削除させて頂いていた、昨年12/13付の焚木「愛は勝つ」を復活しました。(「諸般の事情ってなんですか」とか聞いてはいけません。)

未見で興味のある方は、宜しければこちらをご覧下さい。

なお、再掲載に当たって多少手を入れていますが、展開やオチは削除前と同じです。




次の更新は、みずは様この企画に合わせて3/21(木)の22時頃を予定。
余程のことがない限り必ず更新しますので。

それにしても、
これは・・・(滝汗)もう一枚あるそうで大変楽しみです。




蒼猫様、一周年おめでとうございます!!


  02/03/14(木)   地下室のメロディー(前編)

我社の本社ビルは勤務社員数の割に床面積が小さく、昼休みなど休憩室は奪い合いとなります。
争いに敗れた社員や最初から争いを放棄している社員は、あきらめて自席で休むか、あるいは休憩できる場所を自力で探し出さなければなりません。

その日、争いに敗れた私は、本社ビルの地下にある書庫の奥で仮眠を取ることにしました。
この書庫は古い資料の保管場所となっており、滅多に人は来ません。
多少埃っぽいものの、静かで薄暗く空調も効いており、仮眠を取るにはなかなか良い場所で、以前から時々利用していました。鍵もないので、閉じ込められる心配もありません。

「よっこらしょ。」

書庫の奥、書架の陰に置いてある折り畳み椅子に腰を落ち着けると、私は目をつぶりました。
昼休みに多少なりとも仮眠を取っておけば、午後の作業の能率も上がります。

それでは、おやすみなさい。

・・・・・・・・・・・くぅ・・・

・・・・・・・・・・・すぅ・・・

・・・・・・・・・・・くぅ・・・?・・・

・・・・・・・・・・・すぅ・・・ん?・・・

・・・・・・・・・・・んむ・・・ふぁ・・・声?・・・誰か居るのか?・・・

三十分ほど寝ていたでしょうか。
微かに聞こえてくる話し声に、私は目を覚ましました。
どうやら、書庫の中、書架を挟んだ反対側の通路に誰か居るようです。

「・・・・・なんで・・・・・嘘を・・・・・」

「・・・・・ちがう・・・・・だから・・・・・」

若い男女でしょうか。何やら言い争っているようです。

聞かない方が良いと思いはしましたが、下手に動いて私の存在を気付かれても面倒なことになりそうだし、じっと座ったまま二人の会話に耳を傾けました。

そして、断片的に聞こえてくる会話から、どうやら二人は付き合っており、彼氏が他の女性と仲良くしている所を彼女に見られ、問い詰められているのだと分かりました。

やれやれ、こんな所で痴話喧嘩しなくても。
でも、誰だろう。聞き覚えのある声なんだけどなぁ。

「・・・・・@@が・・・・・だって・・・・・」

「・・・・・それは・・・・・△△も・・・・・」

@@(男性名)に△△(女性名)?・・・ああ!A君にRさんか!

A君とRさんは同期入社で、当時2年目の新人。
ありがちなパターンですが、新人研修のとき隣の席になったのがきっかけで付き合いだしたらしく、社内でも一緒に居るところをよく見かけていました。

彼らの期では同期結婚第一号候補とまで言われていたけど、やっぱり波風とかあるんだな。
でも、万が一刃傷沙汰になりかけたら、私が止めに入らなきゃいけないんだろうか。

・・・あれ?

A君の声が聞こえなくなったぞ。それに、Rさんの声の調子が変わってきたな。

「・・・・・はなし・・・・・や・・・・・ん・・・・・ぁ・・・」

ちょっとくぐもった、何となく甘ったるい息遣い。

これは・・・






お、おふぃすらぶ!?

会社の倉庫で痴話喧嘩のあげく乳繰り合うとはなんと羨まし、もとい破廉恥な。
先輩社員として厳しく糾弾し、懲罰委員会にかけるべきか。(そんなものはありません。)

いやいや、まだ若い二人の将来を一度の過ちで無下に潰すなど先輩社員のすべきことではない。大らかな心をもって見逃そう。

とはいえ、他の社員たちに見つかったりしたら到底かばいきれない。
ここは先輩社員として、そんなことにならないようしっかりと見守ってやるべきではないだろうか。


というわけで、二人の様子をしっかりと見守らせて頂きます。


ふ、ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふ(−_−) < 犯罪


キイッ


!!


その時、私の座っている折り畳み椅子が、微かに軋みました。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

微かな音でしたが、静かな書庫の中では「何か」が存在することを示すには充分すぎました。

書架を挟んだ反対側の通路から、二人が息を潜めて様子を伺っている気配が伝わってきます。

い、いかん、先に動いたら殺られる。
ここは石のように身じろぎ一つせず、貝の様に口を閉ざしてやり過ごすしかない。










「だ、誰か居るんですか。」

「あ、はい。」










「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・( ̄▽ ̄;;

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・( ̄▽ ̄;;;;

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・( ̄▽ ̄;;;;;;





溝口ピーンチ!!


続く




(−_−):(c)兄貴の館(おぃ)



「兄貴の館」様が、3/10付で少し更新されています。

見逃している方は、是非。




みずは様の所で募集しているこの企画に参加することにしました。
藤八様、ご連絡ありがとうございました。)

というか、「兄貴の館」に出入することで人生を誤った
新たな自分に目覚めてしまった身としては、もはや参加は義務

企画内容と企画立案者は伏せられていますが、既に覚悟完了でございます。
なんとなく想像はつきますし。

後は、当日、急な仕事で更新できなくなったりしないことを祈るのみです。
(正直言って、企画の内容より、こちらの方がよほど心配。)



  02/03/10(日)   禁じられた遊び

グオォォ・・・スピィィ・・・

ガタタン・・・ガタタン・・・

グオォォ・・・スピィィ・・・

ガタタン・・・ガタタン・・・

電車の走るリズムに合わせ、鼾(いびき)をかく酔っ払いがひとり。



時々「本日の焚木」に登場する、会社の同期Aから聞いた話です。

その日、会社帰りに同僚と軽く一杯ひっかけたAは、奥さんが恐いので 早めに切り上げると、自宅方面に向かう地下鉄へと乗り込みました。

まだ夜の9時を少し回ったばかり。
混雑の残る地下鉄の中、ほろ酔い気分でつり革につかまっていたAの背後で急に他の乗客たちが騒ぎ始めました。

何事?と思ってAが振りかえると、サラリーマン風の酔っ払いがひとり、電車の床に倒れて鼾(いびき)をかいていました。
Aと同じ駅から乗り込んで来たその酔っ払いは、Aに比べてかなり酔いが回っており、最初のうちは半分寝ながらつり革につかまっていたものの、ついに潰れてしまったのです。

あーあ、だらしないなぁ。
嘆息しながらも、Aは暫くその酔っ払いの様子を覗いました。
吐かれたり失禁されたりしたら大迷惑ですし、吐いたもので窒息でもしたら一大事です。

周囲の乗客たちも同じ気持ちだったのでしょう。
ある者は迷惑そうに、あるものは心配そうにその酔っ払いを見ていましたが、気持ち良さそうに鼾をかくだけで吐いたりすることはなさそうだと分かると、皆その酔っ払いから1メートルほど距離を置き、後は無視を決め込みました。


グオォォ・・・スピィィ・・・

ガタタン・・・ガタタン・・・


自分の周囲に空間が出来たのが分かるのか、その酔っ払いは徐々に手足を伸ばし、ついには「大の字」になってしまいました。

一旦無視を決め込んだAは、その有様に再び嘆息しました。

酔っ払いって普通は丸まって潰れるもんだろうに。
電車の中だってのに、大の字になって気持ち良さそうに鼾かいて。
大胆というか阿呆というか・・・んっ?



ひょこっ。



突然、乗客たちの隙間から幼い女の子が顔を出し、大の字になって寝ている酔っ払いに近づくと、頭の側にしゃがみ込みました。

そしてハンカチを取り出すと酔っ払いの顔にかけ、手を合わせて「なむなむ」と言い始めたのです。

おいおい、そいつ死んでねえって(汗
Aは、そして恐らくは他の乗客たちも、焦りました。

幼子のお葬式ごっこは愛らしいですが、場所が場所だし相手が相手です。
もし酔っ払いが暴れたりしたら怪我でもしかねません。



「@@ちゃん!」



その時、母親らしき人が乗客を掻き分け顔を出すと、悲鳴に近い叫び声を上げました。



「おかあさん」



女の子は立ちあがると、一直線に母親のもとへ駆けて行きました。
そして、母親に抱きかかえられたまま、別の車両へと移っていたのです。





酔っ払いの顔にハンカチをかけたまま。

セーラームーンのイラスト入りの。





グオォォ・・・

ふわっ・・・

スピィィ・・・

ふぁさっ・・・

酔っ払いが鼾をかく度に、セーラームーン・ハンカチが顔から僅かに浮き上がり、そしてまた顔の上に被さります。

Aも、他の乗客たちも、その異様な光景に対して、今度こそ完全無視を決め込みました。

程なく電車が最寄駅に到着したAは、転げ落ちるようにホームに出ると、最後に一度だけ電車の方へ振り返りました。
酔っ払いは、いまだセーラームーン・ハンカチを顔に乗せたまま、電車の床で大の字になって鼾をかき続けています。

きっと、終点まであのままなんだろうなぁ。
一瞬、Aはその酔っ払いを待ち受けているであろう運命に思いを馳せましたが、軽く頭を振ると、奥さんの待つ自宅へと帰って行きました。










私の家にセーラームーン・ハンカチがあるのは、実はこういうわけなのです。



「なんで起こしてくれなかったんだよ、同期A。おかげで千葉県の某駅で一晩明かすことになったんだぞ!?(泣)この薄情男めが。」

「満員の地下鉄でセーラームーン・ハンカチを顔にかけ大の字になって酔い潰れるような変態など、俺の同期には居ないぞ、溝口。」





Q 「溝口さんは無事にお仕事が片付いて更新再開したんじゃなかったんですか?(怒笑)」

A 「すみません、見通しが甘すぎました(泣)」

更新再開した・・・と思ったら、途端に停滞。
今回は告知すら出せずに大変申し訳ございませんでした。(平身低頭)

理由は上記の通り仕事の見通しを誤ったからなのですが、解決に当たって改めて思ったのは、
「やはり同期は頼りになる。」
という事でした。

ありがとう、同期の皆。
(と、ここで言っても同期で見てるのはAだけですが。しかも今回ネタにしてるし。)


  02/03/04(月)   罪人の群れ

プルルルルルルルルルッ

「・・・・・・・・・・。」

入社一年目の秋のことです。

当時の私はまだ仕事に慣れておらず、連日連夜、与えられた作業に必死になって取り組んでいました。(いや、慣れたら慣れたで大量の仕事や一段レベルの高い仕事を割り振られるから、結局のところ忙しくなるのですが。)

その日も気がつけば23時。そろそろ終電がやばくなるし、もう帰ろう。そう思って帰り支度を始めたら、突然、フロア中央にある部長席の外線が鳴り始めました。
部長席の主であるS部長はもちろんのこと、他の社員も全て帰社しており、フロアには私しか残っていません。

どうしよう・・・。

部長席の外線でかかってきたということは他社のお偉いさんでしょう。国際電話の可能性もあります。まだ新人で英会話が不得手な私は怖気づきました。

このまま知らん振りして帰ってしまおうか。
鳴り続ける電話を前にして私は迷いましたが、万一トラブルだったら少しでも早い対処が肝心と思い直し、思い切って受話器を取りました。

「はい、××会社△△部でございます。」

「夜分失礼致します。」

よかった。日本語だ。

私はほっとしました。日本語ならとりあえず何とかなります。




@@銀行犯罪グループのM崎と申します。S様はもうお帰りでしょうか。」




は、犯罪グループ!?( ̄□ ̄;




@@銀行といえば日本有数の都市銀行で、我社の大のお得意様。
なんてこった。あの@@銀行に犯罪者集団が巣食って・・・いや、もしかして@@銀行の裏組織!?確かに時々黒い噂も聞くけど、本当に銀行ぐるみでやばいことをしていたのか!?

ちょっと待て。
そんな連中がS部長に電話をしてきたということは・・・S部長もグル!?
いや、電話を取った私を部長かどうか確認もせず犯罪者集団と名乗ったということは・・・ま、まさか、私が新人で知らなかっただけで実は部署全体が・・・そ、それどころかひょっとして会社ぐるみで@@銀行の犯罪に荷担している!?

「もしもし?」

い、いかん。動揺するな。
私が何も知らなかったとばれたら不味い。下手をすると消されてしまうかもしれない。ここは落ち着いて返すんだ。

「申し訳ございません。Sは本日すでに帰宅しておりますが。」

「そうですか。それでは明日お電話を頂きたいとお伝え頂けますでしょうか。」

「承知いたしました。お電話番号をお願い致します。」

必死になって声の震えを押さえ込みながら相手の電話番号を聞き出すと、私は急いで話を切り上げようとしました。

「それでは、失礼致しま」

「あ、失礼ですが貴方のお名前は・・・」



( ̄□ ̄;



ど、どうしよう。偽名を使おうか。でも、私がフロアで最終だということはすぐにばれるだろうし・・・ううう、仕方ない。

「み、溝口と申します。」

「溝口様ですね。有難うございました。失礼致します。」

ガチャッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・

私はのろのろと受話器を置くと、半ば呆然としたままS部長宛にメモを書きました。


S部長

@@銀行犯罪グループのM崎様からお電話がありました。
折り返しお電話を頂きたいとのことです。

電話番号はxx−xxxx−xxxxです。


ビリビリビリビリビリッ(あわてて破いている音)


S部長

@@銀行のM崎様からお電話がありました。
折り返しお電話を頂きたいとのことです。

電話番号はxx−xxxx−xxxxです。


私は書き直したメモを部長席に置くと、フロアを閉めて帰宅しました。
こうなったら成り行きに任せるしかありません。



明けて翌日。

朝のうちは部長の様子が気になって仕方ありませんでしたが、当の部長が何も言ってこないのと仕事に追われてるうちに落ち着いてきました。

あれは何の間違いだ。あるいは仕事のし過ぎで聞いた幻だ。
きっとそう

「溝口くん、ちょっと。」

・・・じゃないのね、やっぱり(泣)

部長席に向かうと、S部長の隣に、お客様用の胸章をつけた中年の男性が立っていました。
まさかこの人が?

「溝口くんはお会いするのは初めてだったな。こちらの方は@@銀行犯罪グループのM崎さんだ。M崎さん、彼が新人の溝口くんです。」

「ああ、貴方が。昨夜は遅くに失礼しました。@@銀行犯罪グループのM崎です。」

やっぱり、というかS部長もM崎さんも皆がいる前で堂々と「犯罪グループ」とか言ってるし、皆もそれに驚いていない。
やはり部署全体、もしくは会社ぐるみで@@銀行の犯罪に荷担しているのか・・・。

M崎さんが差し出した名刺を受け取り、それに対して自分の名刺を差し出しながら、私は目の前が真っ暗になって行くのを感じました。

きっと、この名刺交換が犯罪組織の一員になる盃のようなものなんだ。

ああ、父上、母上、お許しください。貴方の息子は今から裏社会の一員になります。

うなだれた私の目に、M崎さんの名刺が写りました。



@@銀行 管財グループ

主任 M崎K雄



ちょっとあわて者の新人ですが、宜しくお願いします、M崎さん。ほら溝口くんも・・・溝口くん?何を突っ伏してるんだ?」





あれから10年。
M崎さんには今でも大変お世話になっております。





更新再開しました。

更新停止中に大勢の方から暖かい励ましを頂きました。本当にありがとうございます。

更新停止の直接の原因となった仕事上の問題は、無事、解決しました。
仕事が忙しいのは相変わらずなので、更新頻度はなかなか上がらないと思いますが、宜しければまたお付き合いください。




溝口五位の魂の故郷、「兄貴の館」様が3/3(日)をもって更新を終了されました。

兄貴様、本当に、本当に、お疲れ様でした・・・(;_;)




家元様から「Over "99" CLUB」について参加の御指名を頂きました。(藤八様、掲示板でのご指摘ありがとうございました。)

ネタということですが・・・
本当にやりませんか?
参加資格のある方も大勢いらっしゃるようですし(おぃ)

実は、オチを読むまで本気で参加を考えていました(笑)




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