夏は瑞々しい木々の緑色、そして暑い季節だからか涼しげに感じるスキッリとした青や黄色の鳥が似合う。冬は静かな茶色い風景、寂しげで寒い季節だから、温かな暖色系の赤い鳥が似合う。季節毎に見られる鳥の色も移ろう時の流れに合わせるかのように変わってゆく。そんな自然の中の色を見続けた人間の存在意識の中には、涼しい色は青系、温かな色は赤系とその感じ方が植え付けられているではと思ってしまう。鳥を見て植え付けられたかどうかはわからないけど。
季節は冬、温かな色の赤い鳥の季節だ。見られる鳥の色は暖かくても、十分に体温を奪われる冷たく強い風が吹き上げる標高1300mの崖の淵に居るのだからもの凄く寒い。風に吹かれて揺れる三脚に手を添えながら眼下にある冬枯れの森を覗いていると、右手にある一本の木に、澄んだ青い空から10数羽程の鳥の一群が降りてきた。ごま塩頭に優しい瞳、蜜柑色の身体で背中にある複雑な模様が美しい暖色系の鳥「アトリ」の小さな群れだ。
毎年北からやってくるこの鳥は、時に何万羽の大群となることがあるという。残念ながら私はそんな素晴らしい光景を目にしたことはなく、まして昨今は出会うチャンスが少なくなってしまった。しかし今年はなぜかこの鳥を良く目にする。林道を車で進めると所々でこの鳥と出会うことが出来るのだ。アトリは当たり年のようだ。
「キョキョキョ、ジュイー」と鳴きながら、アトリ達は木の枝で休んでいる。その群れの中から一番距離が近く、枝が邪魔をしていない、そしてなるべく“抜け”の良い背景の中にいるアトリを探してみる。すると目線より少し下の細い枝に一羽の雄を見つけた。距離は近いし枝もない、背景もそこそこ抜けている。早速レンズを構えてファインダーにアトリを入れる。
レンズ越しの彼は丸いお腹を向けてこちらを覗くようにポーズをとっている。なかなか可愛い、さて撮ろうかとシャッターを押そうとした瞬間、少し強い風が吹いてアトリの止まる枝が大きく揺れた。あっ飛んでしまうかなと思ったとき、お腹を向けていたアトリはバランスをとるように背中をこちらに向けた。今まで丸いお腹で隠れていた背中は深い黒色が作る複雑な模様の羽に覆われていて実に美しい。私は迷うことなくアトリをファインダーの左寄りに置いてシャッターを数度連射させた。
久しぶりにアトリの柔らかで優しい視線を捉えることができた。そして暖かみのあるアトリの蜜柑色が冬枯れの森に色を加え、冬の寒さがほんの少し和らいでいるように感じた。(平成21年2月記)
|