車が通った後に残した轍の跡が、みるみる埋まっていく。降り続く雪は、弱まる気配はなくむしろ強くなり、谷を越えた向こう側の山肌を雪のベールで隠してしまうほどだ。あまり長くこの場所に留まるのは、得策とは言えないようだ。
空の様子を見上げそろそろ潮時、山を下りようと考えていると、藪の中から鳥が現れた。さっきから、林道脇の藪を出たり入ったりしている、ミヤマホオジロの牝で、道路脇の小さな雪山の上にちょこんと載り、すました顔で雪面を見つめている。
視線の先は、雪が深く積もり、何もないのに、ミヤマホオジロは動かす暫く見つめていた。もしかしたら、雪が積る前には、彼女の好物の美味しいものが落ちていたのかもしれない。
雪の中の野鳥は、好きな撮影テーマだから、私は雪を大歓迎なのだが、ミヤマホオジロにとってみれば、ただでさえ厳しい冬なのに、彼らの糧を隠してしまう、振り続く雪は有難いものではないだろう。
雪の積もる地面にも、雪を被った枝にも、次の季節を迎える準備はちゃんと進んでいる。あともう少し我慢すれば、過ごしやすくて、暖かな季節がやって来る。勝ってな言い種だけど、もう少しだけ頑張ってほしい。そして、来年またこの森に来てくれて、出会えたなら、それはとても嬉しいことになるのだから。(平成23年3月記)
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