青い空にはギラギラと輝く太陽。その光を受けて勢い良く育った稲穂が少し頭を傾げ始める頃となった。緑一色となった田園地帯を区切る細い農道を、窓から入る熱風に吹かれ汗を吹き出しながら、オアシスのように点在する水の入った休耕田を探して、東から西へ全ての道をなぞるように車を進める。休耕田が見つかると車のスピードを落としてその側にゆっくり近づきシギチドリの姿を探す。シギチの姿を見つけたら、慌てずにゆっくりとレンズを窓から出して、そして静かにシャッターを押す。この時、車の中がいくら暑く狭いからと言って、外に降り三脚を立てるなどもっての他だ。そんな事をしたら、忽ちシギチ達は飛び立って姿を消してしまう。
ジトっとした汗をタオルで拭いながら車を走らせてみたが、シギチの姿は見つからない、水が張ってある田んぼを見つけても、中は空っぽで鳥の姿は見られない。車窓からは暑い風と、空を駆けるセッカの鳴き声が入ってくるばかりだ。
チュッチュッン、チュッチュッン。空を駆ける鳴き声が変わった。すると、田んぼの中に突き出た草の上に、空から駆け降りてきたセッカの姿が現れた。こんな時は素早くレンズを窓から差出す、そしてシャッターを押した。
セッカは、この暑い季節を向かえても、尚元気に一日中、田んぼの上を鳴きながら縄張りの監視に駆け回っている。この小さな鳥のどこにそのパワーがあるのだろう、夏バテは?などと余計なことを考えてしまう。でも、この元気には理由があるようだ。8月の下旬だと言うのに、セッカは何処かの草影で可愛い子供を育ているらしく、その証拠に空を駆け回らない忍者のように静かな個体が、時々虫を加えて田んぼに生えている草の影に入るのが見られた。きっと、餌担当のお母さんセッカが幼い子に餌を届けたのだろう。だから、お父さんセッカは未だ気が抜けず、空を駆け回っているのだ。
元気なセッカの鳴き声が田んぼから聞こえなくなる頃、緑の絨毯だった田園は黄金色に輝きだす。セッカの駆けた空は、高く碧く澄み、涼やかな恵みの季節を迎える。そして田んぼは長くて静かな時を刻み始める。(平成21年9月記)
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