赤い鳥が見たくて訪ねた高原の森。林床を覆うように積もる固い雪が、今年の雪の少なさを物語っている。気温が上がりそろそろ雪解けも始まったのか、近くを流れる小さな川からは水の弾ける音が強く聞こえる。森の中にはその音ばかりが響き鳥の声は小さくて遠く、ミヤマホオジロの雌にベニマシコの小さな群れが見れたぐらいで撮影は残念ながらさっぱりだ。
朝の散歩を兼ねた森の中の鳥見は早々に終わりにして、高原の耕作地に向かうつもりで車の中にレンズを放り込み、日陰以外は雪のない高原の道を進む。すると、そう言えばここはちょっと前まで森だったはずという場所に、小さな看板が建ち別荘地の販売が始まっていた。その小さな草原となった別荘地の中を通る坂道に気まぐれに入り込み、少し進むと前方に鳥の姿を見つけた。マヒワの小さな群れだ。枯れた待宵草の種子を食べようと茎に垂直に取り付いている。
車のエンジンを切り、坂道の惰性で静かにマヒワに近づいてみる。マヒワは食事に夢中なのか、こちらのことはおかまい無しで逃げもしない。さらに静かに近づくと一羽の雄が車の左手にある待宵草に居るのを見つけた。斜逆光気味で難しい光だが、地面に残った雪に薄茶色の草が溶けたような優しい背景が、ふっくらと膨れた黄色のマヒワの可愛いさを引き立てている。レンズを車の窓に静かに載せてマヒワにピントを合わせる、そしてシャッターを押した。少し目を瞑りかけた優しい表情のマヒワがデジカメのモニターに写し出された。
元々ここは唐松や赤松などが立ち並んだ森だし、束の間に出来た草原に生える帰化植物の待宵草は以前からここには無い植物かもしれないが、やがてここには立派な別荘地が立ち並び、マヒワ御用達の束の間のレストランは閉店となる。北アルプスの勇姿が見られる眺めの美しい場所なので、人にとっても人気の場所なのだろうが、なるべく木を切り倒さず、なるべく自然を残すような工夫をしてもらえないだろうか。一生懸命、草の実を啄むマヒワの姿を見ていると、小さな彼らの場所をほんの少し残せたらいいのになあとため息と共に思ってしまう。(平成21年2月記)
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