野鳥の恋の季節が終わり静かになった森を抜けると、いつもの草原が姿を現した。今年は緑が濃く、そこに生える草に勢いがあるように思える。風に揺られうねる草原は、まるで緑色の水を湛えた海のようだ。
そんな、草原を車で暫く進むとコヨシキリがあちらこちらの草の上で出迎えてくれた。どうせなら、草の海からニョキと突き出た、シシウドに乗ってくれればいいのだが、枯れた枝や草の上ばかりで、レンズを向ける気がなかなかしない。何処かに、愛想良く囀りを聞かせてくれる子が居ないかと捜し回っていると、遠くのタケニグサの花の上で、囀るホオアカを見つけた。
明るい緑の草原を背景に、タケニグサの白とオレンジの花が、優しく溶け合った爽やかな夏色の絵の中、ホオアカが可愛らしく唄っている。私はカメラを、反時計周りに90度回し縦位置にしてシャッターを切った。
ホオアカはひとしきり囀ると、草原が作る緑の海にダイブするように姿を消した。私は、埠頭にかけたロープを外すように、レンズを窓枠から下ろし、ホオアカが姿を消した緑の海を縫うように走る細い砂利道に車を漕ぎだした。さて、シシウドの上に載るコヨシキリを探しに行こう、「面舵一杯!」と心の中で呟き、ハンドルを右に回した。(平成22年8月記)
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