深さを増した森からは、キビタキやコルリの声が聞こえるが、残念ながらその姿は大きくなった葉の影に隠れてしまい見ることは難しい。そろそろここでの夏鳥探索はおしまいかなと考えを巡らせていると、オオルリの声が微かに聞こえてきた。その声に惹かれて道を進むと森は開け、リズミカルな水の流れが現われた。
その小さな谷合の流れに架かる古い橋から、声を頼りに辺りを見回すと、下流側の少し先、川の間際に立つカラマツの先端に囀るオオルリの姿を見つけた。白いお腹をこちらに向け、いつものように大きな口を開けて、ゆったりとした美声を緑の濃くなった森に響かせている。
この青い鳥「オオルリ」と初めて出会ったのは、それこそ鳥見を始めたばかりの頃に、鳥見の先輩から「鳥が沢山いる場所(当時は今より確かに鳥が濃かったように思われる)」として教えてもらった軽井沢に出掛けたときだった。双眼鏡と400mmのズームレンズを握りし閉めて、川沿いの林道を歩いていた時、水を求め川に舞い降りようとしていたオオルリに偶然出会えたのだ、しかもいわゆる目線で手が届くほど間近に、その美しい姿を観察する機会があった。あの時のオオルリの輝く瑠璃色は今でも忘れられない。その年以来、その光景の再現と、それを写し撮ることを求めて、初夏の山々を駆け巡っている。あれからかなりの年月が経つのだが、未だ納得する絵は撮れていない。
元気に鳴いているオオルリまでは、ちょっと距離があるし見上げのアングルだけど、止まっている枝は芽吹いばかりの新緑のカラマツの先端。「惜しいな、これで見下げで、あと十メートル近ければ…」納得するシチュエーションには遠いいなどと物々言いながらレンズを向けると、オオルリはピタッと鳴くのを止めて背中をこちらに向けた。美しい瑠璃色が新緑の中で輝いた。このまま鳴いてくれたらなかなか良いかも、と思う間にオオルリはくるりとまた向きを変え、白いお腹を見せて、また元のように渓谷に美声を響かせはじめた。あーあ。
今年も結局、オオルリの写真は撮れなかった。私にとってオオルリの囀りの写真は越すに越せない高い壁なのかもしれない。だからではないが夏鳥のシーズンになると、あの時の碧い輝きを求め渓流沿いの探鳥をつづけてしまう。いつかきっと、きっといつか出会えるはずだから。(平成21年6月記)
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