空から舞い降りてきた雪の結晶が窓に張りつき、美しく繊細なその姿を見せている。車の外は零下の世界、外に出て撮影したらカメラごと凍りそうだ。それに、今外に出たら、目の前にいる鳥が逃げてしまうだろう。本当なら、もう少し鳥と距離をとって、ちゃんと三脚を立てて撮影に望みたいのだけれど、それは無理のようだ。

　雪の花が舞い落ちる、道路脇の草むらには、冬鳥の中でも、人気の赤い鳥、オオマシコが草の実をついばんでいる。贅沢な事なのだけれど、私の500mmレンズだとファインダー一杯、近すぎるのだ。後ろの座席に転がっている、300mmに付け替えればよいのだが鳥が逃げてしまいそうで、そんな余裕がない。

　文句を言いながら撮影を続けていると、遠くの方からタイヤが道路をたたく音が聞こえてきた。音はだんだん大きくなり、やがて目の前を勢い良く車が走り去った。オオマシコは、それに驚き飛んでしまった。大抵“いい所”で、起こるいつもの事。道路なので仕方がないし運転している人に罪はないのだか、こういうときはやたら悔しい。

　車を道の脇に寄せて、今までオオマシコがいた、草むらを諦めきれずに眺めていると、飛んでしまったオオマシコは直ぐに戻ってきてくれた。ここが気に入っているのか、落ち着いた様子で、草の実を食べはじめた。どうやら慌てることはないようだ。車がオオマシコを飛ばした悔しさなどすっかり忘れて、撮影を再開した。

　雪の降る中に赤い鳥、こんなシチュエーションを楽しむことができる冬の高原は格別だ。だからこの季節になると自然と高原に足が向いてしまう。週末の天気予報に雪マークが付いたら、また来てみよう。今日のように、嬉しい出来事があるかもしれないから。（平成23年1月記）